離婚する
「あー、疲れたー」
と、燈良は部屋について早々、ソファに横になる。
「お酒、結構飲んだの?」
「そこそこなー」
「誰と飲んでたの? 女の子?」
「違うよ。小林だよ」
「あー、小林君ね。バンドやってた子だよね?」
と、ここで燈良は思い出す。
「あっ、そうだ。さっき小林からCD買ったんだよな」
「へぇ、遂にCD出したんだ。聴いてみようよ」
「えー、マジ?」
あまり乗り気ではなかったが、姉が聴きたいというのならということで、彼はダルそうに体を起こし、カバンから黒いCDを取り出し、テーブルに置く。
「あれ、違うな」
と、一度首を傾げると、彼は再びカバンの中を漁り出す。
「それじゃないの? 小林君のCD」
「いや、これは違う。パソコンのセキュリティソフトとかドライバがどうとか言ってたな」
「どういうこと?」
「親父が渡して来たんだよ。家出るタイミングだったし、そのままカバンの中にぶち込んだんだよ。明日帰ったらやらないと怒られるなー」
「ねぇ、お母さんとお父さんは最近どう? また喧嘩してる?」
「最近は派手なのはしてないな」
それを聞いて、光莉は安心した。
二人から見て、両親の仲は良好とは言えなかった。
二人が幼い頃から、父は仕事一筋で、帰宅はいつも二人が眠る深夜。土日もほとんど家におらず、長期休暇にたまに出かける程度だった。
二人が悪さをした時、夜中に起されて父に怒鳴られる経験が、幼い二人にとっては何よりも恐怖の体験だったと記憶している。
そして母親は、パートに出ながらも、二人の面倒を見る忙しい日々を送っていた。
家庭のことをほとんど母親に任せっきりだったためか、不満は募り、両親の喧嘩は絶えなかった。
幼い頃は、両親が喧嘩を始めると燈良は泣き出し、姉と二人で押し入れに隠れていた覚えもある。
母が感情的に「離婚する」と宣言すると、二人が泣いて止めたことも記憶にはっきりと残っている。
二人が高校生の頃、家具が壊されるほどの激しい夫婦喧嘩が起きた。
もう慣れっこだった二人だが、受験勉強をしていた光莉は、集中できないからと強めに止めに入るが、小柄な彼女は突き飛ばされてしまい、怪我を負った。
その時、燈良は怒りのあまり、我を忘れて父親を殴り続けた。
この時が、初めて父親に勝利した瞬間だった。
それから父親の仕事も落ち着き、比較的家にいる時間も増えたが、その事件以降、何となく燈良は父親を避けるようになり、実家に帰るのを嫌った。
燈良は小林から買ったCDを見つけ、取り出す。
「あった。バンド名、ファースト・エクスペリエンス。アルバム名はG・アクションだって」
「G・アクション……? G行動? どういう意味?」
「響きのかっこよさだけで付けたんだろ」
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