光莉

 それからもくだらない話をしながら飲み食いしていると、時刻はあっという間に22時を過ぎていた。

 そこで、燈良の携帯電話に着信があった。

「ごめん、姉ちゃんから電話だ」


 燈良は小林との会話を中断してそれに出る。ほどなくして切ると、燈良は言う。

「ごめん。もう帰らないといけなくなった」

「マジ? まだ10時だぜ? 何かあったのか?」

「いや、姉ちゃんの家に行く約束してたんだよ。すっかり忘れてた」

「姉ちゃんって……。お前、マジかよ」


 燈良はいわゆるシスコンというやつだ。

 子供の頃から、二つ年上の姉を慕っており、姉が実家を出て一人暮らしをしてもなお、毎週のように通っている。



 今日もまた、姉と約束をしており、バイト終わりの彼女を迎えに行くことになっていたのだ。


 それから二人は解散すると、燈良は姉との待ち合わせ場所である駅の改札口へと急いだ。


「あっ、来た来た。遅いから置いていこうと思ったよ」

 と、先に到着していた姉の光莉ひかりは笑う。


 茶髪のショートカット。イベントのバイト終わりの彼女は、動きやすいカジュアルな格好に、リュックを背負っていた。

 今日のイベントのバイトは白スニーカーの指定のため、彼女の低い身長が底上げされておらず、なんだかいつもより小さく見えた。


「ごめんごめん。近くで飲んでてさ」

「行こっか。今日泊まってくんだよね?」

「あぁ。明日はそのまま大学行くつもりだからよろしく」


 二人はそれから電車で移動し、光莉の住むマンションへやってきた。

 彼女の部屋は6階。鉄筋コンクリートの1LDKで駅の近く。家賃はそこそこ高いが、両親の仕送りで賄っている状態。

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