ロスト・キングダム

G・アクション

 とある駅前の居酒屋。20歳になったばかりの二人の男が、まだあまり慣れないビールを飲んでいた。


 一人は塩崎燈良しおざきあきら。身長176センチメートル。茶色の髪は全体的に長めで、前髪は目にかかってしまうほど。

 一見すればどこにでもいるごく普通の大学生だし、彼自身も平凡な人生を送って来たと思っている。

 面倒事は嫌いだし、普通という枠から外れるのは恐ろしいことだという認識もある。


 そんな彼の対面に座るのは、小林という男。派手な金髪が印象的で、口元には大きなピアスがある。彼は燈良とは逆で、普通の人生を送ることが嫌で、音楽で生計を立てることを夢見ている男だ。


 小林はバッグから一枚の黒いCDを取り出し、燈良に渡す。

「これ、俺のバンドのCD。一枚五百円でいいぜ」


 燈良はそれを受け取り、何気なく眺める。

「ファースト・エクスペリエンス……初体験? これがバンド名?」

「そっ。どうする? いらないなら別に無理強いはしたくないんだけど」


 正直、バンドや音楽に興味はない。買ったところでわざわざ聴くこともないだろう。

 だが、こういう時、友達として応援してあげるのが無難な対応。わざわざ亀裂を生むようなことは普通しない。

 要らないものに五百円を払うのは無駄だと感じるが、逆に考えれば、五百円で友情を買えるなら安いものだ。


「いや、買うよ。友達だろ?」


 燈良はファースト・エクスペリエンスのミニアルバム、「G・アクション」を購入した。

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