ロスト・キングダム
G・アクション
とある駅前の居酒屋。20歳になったばかりの二人の男が、まだあまり慣れないビールを飲んでいた。
一人は
一見すればどこにでもいるごく普通の大学生だし、彼自身も平凡な人生を送って来たと思っている。
面倒事は嫌いだし、普通という枠から外れるのは恐ろしいことだという認識もある。
そんな彼の対面に座るのは、小林という男。派手な金髪が印象的で、口元には大きなピアスがある。彼は燈良とは逆で、普通の人生を送ることが嫌で、音楽で生計を立てることを夢見ている男だ。
小林はバッグから一枚の黒いCDを取り出し、燈良に渡す。
「これ、俺のバンドのCD。一枚五百円でいいぜ」
燈良はそれを受け取り、何気なく眺める。
「ファースト・エクスペリエンス……初体験? これがバンド名?」
「そっ。どうする? いらないなら別に無理強いはしたくないんだけど」
正直、バンドや音楽に興味はない。買ったところでわざわざ聴くこともないだろう。
だが、こういう時、友達として応援してあげるのが無難な対応。わざわざ亀裂を生むようなことは普通しない。
要らないものに五百円を払うのは無駄だと感じるが、逆に考えれば、五百円で友情を買えるなら安いものだ。
「いや、買うよ。友達だろ?」
燈良はファースト・エクスペリエンスのミニアルバム、「G・アクション」を購入した。
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