ロスト・イン・ア・ロスト・キングダム ーおい、無双でもハーレムでもスローライフでもねぇ ヘヴィメタルに決まってんだろ!ー

むらた草あw

第1章「ロックンロールからの仮釈放なし!」

序章

革ジャンを着た男

 見渡す限り、どこまでも広がる緑の地平線。

 太陽が照らすこの広大な平原を、人を乗せた6頭もの馬が疾走していた。


 先頭を走る3頭と、それを追いかける3頭の馬。それは決して、穏やかなものではなかった。

 後方の馬に乗る大男は、濁声で怒鳴るように声を上げる。

「馬鹿がッ! 逃げ切れると思ってんのか! あぁ?」


 追いかける彼らには、前方の若者三人を捉えて逃さない自信があった。

 ここはどこまでも広がる平原。国境からも随分離れている。逃げようと思えばどこまでも逃げることはできるだろう。

 だが、例外的に、あるが存在するのだ。それはこの世界の住人全員の共通認識。



 先頭の3名の内、唯一の女性は振り返る。

「もうっ、ホントしつこい!」

 彼女は後ろから迫る殺意に愚痴を溢す。

 そんな女性の横を走る髪の短い金髪の男は、先頭を切る男へ言う。

「どこまで行く気だ? この先は……!」


 先頭の男は、鎧のように分厚い、本革のライダースジャケットを着ていた。彼は一度頷く。

「……頃合いだな。そろそろやるぜ」


 革ジャンを着た男は、いつの間にか手にしていた、複数の銀色に輝く金属の玉をまき散らした。

 一瞬、まきびしかと思った後続の男たちだったが、すぐにその正体に気づく。


「パチンコ玉?」

 革ジャンの男が何かを仕掛けようとしていたのは間違いないが、ただのパチンコ玉に仕掛けがあるはずもない。

 大方、追いつめられ、苦し紛れに放ったと言ったところだろう。


 こんなハッタリが通用するはずがないと、後続の三人は構わずに追跡する。

「追いつめろ! 奴らはもう限界のはずだ!」



 ――そう言った直後だった。

 男たちは突然、空中に投げ出され、一斉に落馬してしまった。


「な、何が……!」

 男たちの乗っていた馬はパニックになり、暴れながらどこかへ走り去ってしまった。周囲では、パチンコ玉が弾けたように四方へ飛び散っていた。



「い、痛ぇ……」

 と、地面に落ちた仲間の一人が片目を押さえていた。


「どうした?」

「な、何かに、何かに撃たれた……ッ!」

 男の目からは血が流れていた。そしてもう一人の落馬した仲間も、同様に腕を押さえて痛みに悶えていた。


「そんなまさか……」



 見ると、先ほどまで追っていた先頭集団は、旋回しながら戻ってくる。

 落馬して負傷した自分たちへ、追い打ちをかけるかのように。

(お、追い詰められていたのは……俺たちの方だ!)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る