視える僕と、見えない君
こより
第1話
クラスのすみっこで、縮こまって本を読む。あいつらの視界に入らぬように。
消したはずの机の落書きは、昨日よりも多くなって返ってきたようだ。
今は何時かな。あと何分こうしていなきゃならないんだろうか。
ふと前を見ると、焼きそばパンを口に入れたままのあいつらと目が合う。
ぷっ、と誰かが笑うと、そいつを皮切りに、次第にみんなが笑い出す。
焼きそばが唇からはみ出しても、まだ笑う。
あっけに取られる俺を見て、リーダーのあいつがまた、ああいう。
「おい、こっちみんなよカス」
「そうだぞダイチ」
「こっち見てんじゃねぇよ」
「またお化けの話しろよー」
「やばウケる」
「お化けが仲間こと紹介してるだけだろ」
「やっばお化け死ぬ」
「ユウタおもろすぎ最高」
逃げる勇気もないから、下を向いて俯くだけ。
こうやってまた本に視界を戻すと、毎回、鼻がツン、とする。
あぁまたこれだ。急に目の前がにじんで本が読めなくなるんだ。
ぽちゃりと水滴のようなものが落ちてくるまでがセット。
こういう姿を「惨め」というんだ。
こうやって陽キャのいっときのおもちゃにされて、
使い捨てのボックスティッシュみたいに1週間か2週間で捨てられる。
だから僕は、こういう現象の事を「ボックスティッシュ化」と表現している。
僕は自己紹介でお化けの話をしたから。
霊感があるって、言っちゃったから。
僕の見た目が地味だから。
髪型がダサいから。
分厚いメガネをしているから。
勉強が出来ないから。
運動が出来ないから。
友達がいないから。
友達。
友達。
友達。
友達。
ねぇ、話しかけてくれないの?
中学の時みたいにさ。
タカシは?
シュンは?
中学の同級生が、友達が、同じクラスに3人もいるのに。
みんな話しかけてこない。
あぁ、僕はこのクラスのボックスティッシュになっちゃったんだ。
常にクラスの中心にいるのは、
容姿がすごく整っている女子か、運動が出来る男子。
容姿がすごく整っている女子の方は、
数ある高校の中でも、ものすごくレベルが高いと思う。
ショートボブの似合う結城さんも、陸上の女神って言われてる河野さんも可愛いから人気だけれど、やっぱりナンバーワンは東條さんだ。
東條さんが走ると、彼女の高く結ったポニーテールが揺れるんだ。
毎日、本を読み飽きたあたりでそのポニーテールを眺め始める。
今日のポニーテールは、白いシュシュで可愛い感じにまとめてある。
彼女は結城さんと河野さんとお昼ご飯を食べていた。
ぽうっと眺めていると、タイミングよくポニーテールが後ろを振り返ってきた。
奇跡的に目が合う。眩しい瞳。ほほえむ唇に、白いクリームが少し残っている。
あまりの美しさに硬直していると、ポニーテールは立ち上がって、
こちらに向かってずんずんと歩いてくる。
短いスカートから、歩くたび、綺麗な太ももが見えたり、隠れたり。
でもやっぱりポニーテールに目がいく。後ろからじゃなきゃ全体は見えないけど、前からでもその美しさはわかる。揺れる、揺れる。ポニーテールの、ポニーテール。…ん?ポニーテールさんって名前なんだっけ。
「ねぇ、ダイチくん?だっけ?」
「___え?」
「なに、読んでるの?」
これが、僕の人生を変える決定的な瞬間だった。
視える僕と、見えない君 こより @hayase1234
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