第24話 金の玉
週明けの月曜日、
歩き方が少しギコちないものの、包帯もスラックスの下に隠れており、パッと見では先週末に左スネを打撲したとは分からないだろう。
「蒼汰、順調に回復してそうだな!」
「まあな。
ニヤリとする蒼汰に、親友の
「土曜日に彩理衣ちゃんが家に行ったんだろ。オヤジさん、どうだった?」
「彩理衣がめちゃめちゃ丁寧に挨拶してくれてさ、オヤジに『よろしくお願いします』って頭を下げるもんだから、オレまで一緒に頭下げちゃったよ」
「自分の父親にか? そりゃ滑稽だわ!」
二人でギャハギャハ笑う姿は、高校生らしい青春まっしぐらといったところか。
「で、オレを殴ったヤツを見かけたんだって?」
「ああ、
「そうか。アイツ、県立高の野球部だもんな」
「
「ああ、サンダーストラックな! あれをもろに喰らったらヤツもイチコロだろうよ」
「ありゃ、そんなカッコいい名前、付けたのか?」
「お前も佳央里ちゃんとの合わせ技、編み出したんだろう?」
「そう、名付けて『
「痛矢? ダっせえw」
「蒼汰までそう言うのかよ。佳央里にもダサいから名前変えようって言われてんだよなあ」
「そこは佳央里ちゃんに考えてもらえばいいんじゃね?」
「いや、オレもそうしたいんだけど、技の名前は男の子が考えてねって言うんだよ」
「だったらさ、痛矢をまんま、英語にすりゃいいじゃん」
「英語か。ペインアローとか、そんな感じかな?」
「悪くないけど、語呂がイマイチかな」
「語呂ねえ。名前付けるのって、難しいな」
果たして『
「そういえば
「いや、金曜日以来、まだ会ってないから、初耳だな」
「その名も『ボマイェ』! これも彩理衣の命名だよ」
「ボマイェ!? まさか膝蹴り? それってライド能力、関係なくね?」
「アハハ! そっちのボマイェじゃねえよ。相手の心に大きい音をぶつけるんだ」
「ああ、なるほど。まあ杏未那の膝蹴りも、ガチで効きそうだけどなw」
そう言って笑う武蔵の背後に、いつの間にか迫る女子生徒の姿が。
「誰の膝蹴りが効きそうだって? 喰らわせてあげよっか?」
「うわ、杏未那! いつからいたんだよ!?」
「そんだけ大きな声で話してたら、私の聴覚ライドにも勝手に響いてくるのよw」
「ほら、杏未那、脚長いからさ。普通に膝蹴り効くだろ」
「ふーん。まあ武蔵のことだから、誉め言葉に受け取ってあげるよ」
「いや、マジだよ。杏未那なら相手のアゴに膝蹴り入れられるじゃん。それでビビらせてから、大きな音を浴びせれば効果的じゃないか」
なるほど、たしかに武蔵の言う通りかもしれない。
オーバーライドはまだあまり練習できてないし、ボマイェのほうが聴覚ライドを活かせるぶん、より早く上達しそうだ。だったら膝蹴りからのボマイェを練習したほうが、自分の身を守りやすいかもしれない。ん? 膝蹴りからのボマイェって、何か変だなw
キーンコーンカーンコーン♪
授業が始まる時間だ。ライダー5人は男子2人が2年A組で、女子3人が2年B組なので、長話をするなら昼休みか放課後に限る。
「じゃあ、昼休みにね!」
「おお、またあとでな!」
「週末の報告会、しようぜ」
昼休み、
「杏未那、新しい技を習得したんだって?」と、佳央里が驚いた顔を見せる。
「蒼汰のお父さんがアドバイスしてくれてね、逆聴覚ライドを使って相手の心に大きな音を浴びせるのよ」
「あれ、スゴかったよね! ボクにもスマホのアラーム音、聞かせてくれたんだよ」
「へえっ! そんなこともできるんだ?」
「それで彩理衣が『ボマイェ』って名付けたのさ」
「ボマイェ? どういう意味?」
「えっとね、説明すると長いんだけど、アントニオ猪木の応援歌が元ネタなの」
「猪木? プロレスの? よく分かんないけど『
「100万倍って、佳央里さぁ……」
シュンとする武蔵に、他の4人が爆笑する。
「それに蒼汰もね、新しい技を編み出したの!」
彩理衣が嬉しそうに報告。彼氏を話題にできることが楽しそうだ。
「蒼汰クン、どんな技なの?」と佳央里が訊ねる。
「武蔵が弓道を応用したって聞いたからさ、オレは野球から発想したんだよ。ライドの揺らぎをボールに固めて、相手に投げつけるのさ」
「ボールがキラキラして綺麗だったなあ。そういえば名前って付けてたっけ?」
「いや、まだだな。彩理衣、付けてくれるか?」
「うーんとね、じゃあ『ゴールデンボール』! 揺らぎが金色に輝いてたからね」
ほかの4人が一様に黙り込む。
あれ? という顔つきでキョロキョロする彩理衣。
「いや、彩理衣さ、日本語にしてみてよ」
杏未那のささやきに、考え込む彩理衣。
「ギャアっ! いまのなし! なしなし!」
またもや他の4人が爆笑だ。どうやら“金の玉”は回避できたらしい。
「彩理衣のアイデアも悪くないから、ちょっと変えて『ファイアボール』とかどう?」
佳央里がすかさず助け舟を出す。
「あ、ボクもね、最初それがいいと思ったの!(汗)」
「なんだよ佳央里、オレたちの技にもいい名前、考えてくれよ」
「ダメです。あなたは自分で考えてください」
なんだ、その夫婦みたいな会話は。金曜日までは二人の仲に嫉妬を感じていた杏未那だが。週明けの今日はなぜかすんなり受けいれられる。やはり時間は心の傷を癒してくれるらしい。
「これで私たちの合わせ技、杏未那のボマイェ、蒼汰のファイアボール、そして彩理衣の雷撃で、けっこう技のバリエーションも増えたわね」
ちゃんと整理してみせるのがいかにも、まじめな佳央里らしい。
「あ、彩理衣の雷撃は『サンダーストラック』って名前なんだよ」
「そうなのぉ♪ カッコいいでしょ?」
「やっぱ彩理衣はセンスいいわね。『痛矢』もやっぱ、彩理衣に名付けてもらおうかしら」
「いいよ、考えとくね! そうそう、佳央里が痛みを飛ばす技って名前付けてあるの?」
「『インジェクション』なんてどうかしら? 注射って意味なんだけど」
「いいじゃん! 病院の娘っぽいよね」
杏未那の反応に、佳央里も嬉しそうだ。
「じゃあ名前もほとんど決まったから、ちょっとボクの話、聞いてくれる? 今週末が文化祭でしょ。ここが大一番になるんじゃないかと思ってるんだ」
「大一番って、文化祭はもともと大一番じゃないの?」と訊ねる佳央里。
「ううん、そういうことじゃなくて、文化祭は他校の生徒も自由に入れるじゃない?」
「そうか、隣の県立高のヤツらが、やってくるかもしれないってことか!」
はたと武蔵が膝を打つ。
「そうなの。うちと隣の県立高は昔から同じ日に文化祭を開催していたから、お互いの生徒が行き来することはほとんどなかった。でも今年に限っては、デンたちが何か企んでいるんじゃないかとニラんでいるの」
「そうか、ウチの文化祭で何か騒動を起こせば、オレたちのセンバツ出場を妨害できるかもしれないってことか」
「逆恨みで蒼汰のことをバットで殴るような汚いヤツだから、やりかねないと思う」
彩理衣が生徒会長らしい、真面目な顔つきで指摘する。
「野球部は毎年、お化け屋敷やってるよね。悪いけど蒼汰は外れたほうがいいと思う」
「そうだな。まだ左スネも万全じゃないし、そのほうが安全か。なんだか敵前逃亡みたいでイヤだけど、三十六計逃げるに如かずってヤツだな」
「オレは弓道部だとはバレてないはずだけど、模擬店では裏方に専念するよ」
「私は顔バレしてないと思うけど、どうしようかな」
「いや、杏未那はそもそもインフルエンサーとして有名だから、気を付けたほうがいいよ。これがきっかけで仕事に影響したら、それはそれで困っちゃうでしょ?」と佳央里が心配する。
「杏未那は聴覚ライドを使って、みんなをバックアップしてほしいな」と彩理衣。
「うん、分かった。きっとアイツらは徒党を組んで、蒼汰と武蔵を探しにくるだろうし、怪しいヤツらの声を片っぱしから聞いてみるよ」
大体の方針が決まってきたところで、佳央里が提案だ。
「ねえ。アイツらの裏をかいて、こちらから偵察に行かない?」
「偵察って、どうやって?」と杏未那が不思議がる。
「私と彩理衣は金曜日にデンの顔を見たでしょ? でもデンは、私たち二人の顔を知らない。だから国境の向こう側のコンビニでデンを待ち構えるのよ」
「でも都立高の生徒だってバレたらヤバくない?」
「大丈夫。私服に着替えていくから。そうすればどこかの私立高とか、別の学校の生徒に見えると思うよ」
「いいね! じゃあ明日、ボクも私服、持ってくるね」
「彩理衣は胸が目立つと絡まれるかもしれないから、気を付けて」
「分かった! 男装するときのパッドを仕込んでいくよ」
「オレと武蔵はこっち側のコンビニで待機するから、何かあったら助けに行くよ」
「大丈夫。いざとなったらインジェクションでやっつけるわ」
「ボクもサンダーストラック、ぶっぱなしてやるよ!」
なんとも頼もしい女子たちだ。
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