第15話 仲間割れ
放課後、左スネの打撲で入院している
もともとは
本来は
「彩理衣は蒼汰のこと、知ってるんだっけ?」
「生徒会長は全部活の部長と打ち合わせするから、ボクも話したことあるよ」
「そっか、野球部だとキャプテンの蒼汰クンが部長になるわけね」
「野球部の場合、顧問の先生を部長って呼ぶから、紛らわしいけどね」
「おじいちゃん監督とは別に、顧問の先生がいるんだ?」
「あの監督さん、ああ見えて高校生の時、甲子園に行ったことあるんだって」
「それって戦前の話じゃない?w」
ケラケラ笑いながら歩く女子3人組に、道行く人々の視線が釘付けになる。
なにしろ長身モデルばりの美貌を誇る
「あの子、インフルエンサーのあみなんじゃない?」
他校の女子生徒たちがひそひそと話しながら杏未那をチラ見している。女子高生に限れば杏未那の知名度が相当なレベルにあるのは間違いない。
一方ではターゲットが異なるからか、男子高校生の目にはむしろ佳央里や彩理衣のほうが魅力的に映っているようだ。
「あの小っちゃい子、なんだか人形みたいだな」
「オレ、真ん中の子が最高に好みなんだけど」
「マヂか。そっちも可愛いけど、あの小っちゃい子、エロすぎじゃね?」
「だよな、ちょっと行っちゃうか?」
チャラいを絵に描いたような男子二人組が杏未那たちに近づく。
二人とも茶髪で、片やネックレス、片やブレスレットをジャラつかせている。昭和のころならリーゼントや剃り込み、長ランや短ランで決めたヤンキーだったに違いない連中だ。
杏未那たちの高校は髪色が自由で、茶髪の生徒も珍しくないが、いわゆるチャラ男はほとんどいない。学校が違うとそういった棲み分けも自然とできるのだろう。
「ねえ、キミたちさ、ヒマなの?」
「オレたちとカラオケでも行かね?」
「あ、ゴメンね。ちょっと急いでるの」
「じゃあ、おねえちゃんは先に行きなよ。オレたちはこっちの二人に用があるから」
「はあっ、なに言っちゃってんの?」
「あん? オメエこそなに言ってんだよ」
いきなりチャラ男たちとニラみ合う杏未那。自分のことなら滅多に怒ったりはしないが、友だちにチョッカイを出されるのは許せないタイプだ。
「オメエには用がねえんだよ。さっさとどっか行けや」
「アンタたちに指図される覚えはないんだけど!」
「ったく、んぜえなあ。なあ、オレたちと遊びにいこうや」
ネックレス男が佳央里に、肩を組むかのように腕をかけようとする。
「ちょっと、やめなよ!」
「はん、聞こえねえ、なああっ!?」
宙を舞うように一回転し、地面に転がるネックレス男。肩を組まれそうになった佳央里が稲妻のような速さで投げ飛ばしたのだ!
「ああん! てめえ、なにしてんだ!」
ブレスレット男が佳央里に掴みかかろうとするも、わずかに半身の体勢を取った佳央里が男の勢いを受け流す。そのまま男は無様に自分から転んでいった。
「ちょっと、やめてくださる?」
転がした二人のチャラ男を、蔑むような眼で見おろす佳央里。その姿は愚かな人間どもに天罰を加えようとする大天使さながらだ。
だが残念なことに、チャラ男二人は本当に愚かな人間だった。見た目より強そうな佳央里や、自分たちより背の高い杏未那が相手では分が悪いと考えたのか、今度は小柄で弱そうな彩理衣をターゲットにするつもりのようだ。
「もうお前だけでいいから、来いや!」
ネックレス男が彩理衣へとにじり寄り、ブレスレット男は仲間をブロックするかのように立ちはだかる。なんとも情けない姿、なんて可哀想な光景だろうか。可哀想なのはもちろん、彩理衣ではなくチャラ男たちのほうである。
【彩理衣、やっちゃいなよ】
杏未那が聴覚ライドトークで話しかける。一瞬、驚いた表情を見せた彩理衣だが、すぐに状況を飲み込み、その場に立ちすくむ。恐怖からではない。その目には明らかに怒りの色が浮かんでいる。ああ、チャラ男たちの運命やいかに。
「おい、やめとけ」
ブレスレット男が急に、仲間に指図する。
「はっ、なに言ってんだよ?」
ネックレス男が振り返った瞬間、強烈なパンチが顔面をとらえる!
「いてえ! てめえ、なにすんだ!」
「ダセえからやめろよ」
「なにがダセえだよ! このチビがエロいって言ってたの、てめえじゃねえか!」
「知らねえよ。オメエがダセえって言ってんだよ」
「はあっ!? オレとやんのか!」
いきなり仲間割れを始めたチャラ男二人。殴られたネックレス男が反撃し、顔と腹にパンチを入れ、ブレスレット男が倒れ込んだところに蹴りまで入れてきた。まったく、加減というものを知らないヤツは始末が悪い。
すると倒れ込んだブレスレット男が、相手の脚を掴んで引きずり倒す。デブ気味の体格でのしかかり、ヒジを相手の顔面にグリグリと押し付ける。これは地味に痛いヤツだ。
「てめっ、やめろ! やめろってんだよ!」
これくらい
「いまのうち、さっさと行っちゃお」
小声で杏未那がささやくと、佳央里と彩理衣もうなづき、小走りに走り出す。
3人の後にはチャラ男二人が、もんどりうって殴り合いを続けていた。
数百メートルは移動しただろうか、もう追いついてくることもなさそうなことを確認し、一息つく3人。もう道路にも人影はなく、面倒に巻き込まれることもないだろう。
「ちょっと佳央里! あなた格闘技とかやってたの?」
「合気道、習ってたんだ。自分から技を掛けることはないけど、
「いきなり表情が変わったから、ボク、ビックリしちゃった! カッコいいなあ」
「お父さんが合気道やってて、女の子は自分の身を守れたほうがいいって小学生のときから道場に通わせられたの。当時はイヤだったけど、いま思えばやっておいてよかったかな」
「だから武蔵へのビンタもあんなに強烈だったのか」
「いや、それはまた別ね。あれは単に怒りのパワーが大きかっただけ」
3人で笑い合う。
「ねえ杏未那。さっき、ボクの心に話しかけたよね?」
「そうなの、ちゃんと聞こえたでしょ?」
「うん、バッチリ! ちょっとだけビックリしたけど、杏未那の能力を知っていたから、すぐに対応できたよ」
「彩理衣の力は、自分を守るためのものだもんね。でも、操り方が上手すぎない?」
「アハハ! ボクね、プロレスを観るのが好きなんだ」
「ああ、やっぱり! 殴られるときって痛くないの?」
「痛覚は遮断しているから大丈夫。だからどれくらいダメージがあるのかも分かんなくてさ、あそこで倒れ込んだのもプロレス的な動きのつもりなんだよね」
「ヒジでグリグリするの、めっちゃ痛そうよね」
いかにも痛そうな顔をしてみせる佳央里に、二人が笑う。
【そっか、オーバーライドはこうやって使えばいいんだな】
能力を身に付けたはいいものの、まだ実践したことのない杏未那は、オーバーライダーの先輩である彩理衣のやり方に感心していた。
「あのさ、オーバーライドって練習とかできるの?」
「オーバーライド? あぁ、相手を操る能力のことかな?」
「そっか、彩理衣はまだ専門用語、知らなかったよね。ほら、私たちの聴覚ライドとか視覚ライドみたいに、相手の感覚を乗っ取る能力をオーバーライドって呼んでるのよ」
「へえ! なんかカッコいいね。オーバーライドかぁ!」
「私も練習したいんだけど、乗っ取られた相手がおかしいなって思ったら困るよね」
「それはね、レベルを調節するといいんだよ」
「レベルって?」
「シコスタで暴漢をやっつけたときと、いまチャラ男をケンカさせたとき、実はレベルを変えていたのに気が付いた?」
「う~ん、よく分からないから教えて」
彩理衣の説明によると、オーバーライドの際には、相手の意識レベルを調節できるという。
相手に意識が残っているままにするか、もしくは意識まで奪ってしまうかという違いだ。
昨日、アヤカを飛び降りさせた際には、わざとアヤカの意識を残しておいた。そうすれば、相手は自分の身体が勝手に動くことに恐怖感を抱くとともに、オーバーライドされているあいだの記憶もすべて残ることになる。
シコスタの事件でもそうだった。あのときに
それに対して先ほどのチャラ男たちでは、あえて意識も奪うことで、なぜ仲間とケンカをしているのか分からない状況にするのがベターだと判断していた。ほかのケースでも相手に『オーバーライドされていること』を知られたくない場合は、意識まで奪ってしまえばいい。そうすればオーバーライドが解けたとき、夢から覚めたように感じるようだ。
「だから練習するときは、迷惑にならない範囲で友だちの意識を奪うの。練習を終えるとき、机に突っ伏して寝ている格好にすれば、いつの間にか寝ちゃってたって思うでしょ?」
「なるほどね。まさか彩理衣、学校で練習してるの?」
「ううん、ボクは中学の時にさんざん練習したから、もうやってないよ」
「そっか。私はどうやって練習したらいいんだろう」
「うとうとしている人を見つけるのがいいかもね。完全に寝ちゃった相手にはライドできなくなるから、そこは気を付けて」
「じゃあ今度、武蔵にオーバーライドしちゃおうかなw」
「あ、男子にオーバーライドすると、アソコの感覚に慣れないうちは変な感じになるよ」
「うわあ、それじゃ武蔵は絶対避けなきゃじゃん!」
またもや3人で笑い合う。どうやら佳央里も彩理衣も、武蔵を獲り合った一件はすでに心のなかで解決済みのようだ。これで一件落着かな。
この時はまだ気づいていなかったが、彩理衣からオーバーライドにおけるレベルの違いについて教わっていたことが後々、杏未那を救うことになるのだった。
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