第33話 むしば

「ぼくはむしば」


ぼくは ちいさな むしば。

まっくらで あたたかい くちのなかで うまれたんだ。

はじめは ちいさな ちいさな あなが あっただけ。

でも そこから ぼくは すこしずつ おおきくなった。


「ここ あまくて おいしい!」

ぼくは おかしや ジュースが だいすき。

あまいものが くるたび おまつりみたいに よろこぶ。


でも そこへ しろいヒーローが やってきた。

そのなまえは――「はぶらし」。


「きさま! きょうも おそうさせはしない!」

はぶらしは ゴシゴシ ごしごし。

ぼくは あわにまかれて 「ぎゃー!」と さけんだ。


そのひも そのつぎのひも、はぶらしは まいにちやってきた。

ぼくは なかなか おおきくなれない。

でも あるひ――。


「チャンスだ! アイツ はを みがかなかった!」

ぼくは すぐに なかまたちを よびよせた。

「さあ ひろがれ! かたいはを どんどん とかしちゃえ!」

ぼくたちは わらいながら あなを おおきくした。


けれど……。


「このこ、むしばが ありますね」

おとなのこえが きこえたとおもったら、

まぶしいライトと しろいマスクのひとが あらわれた。


「むしばくん、もう おしまいだよ」


ぼくは ドリルで けされてしまった。

さいごに ちょっとだけ おもった。


――こんど うまれるときは、

 もっと はやく にげようっと。


おしまい。

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