第14話 戦力外通告書

『俺は戦力外通告書』


気づいたら、俺は一枚の紙だった。

白い表面に黒々とした文字。

――そう、俺は「戦力外通告書」に転生していた。



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配達される運命


ある日、引き出しから取り出され、封筒に入れられた。

「○○選手へ」

宛名を見て、俺は悟る。今日で彼はチームを去るのだ。


運ばれていく途中、俺は葛藤していた。

渡されれば彼の心を傷つける。でも渡さなければ、彼は真実を知らないままだ。

戦力外通告書は、やさしくなんてなれない。



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渡された瞬間


事務所の中、監督が口を開く。

「……残念だが、来季は契約しない」

俺は机の上に置かれ、彼の手に取られた。

視線が俺の文字を追う。

ほんのわずかに唇が震え、深く息を吐く。


「……わかりました」


その声に、怒りも涙もなかった。

ただ、覚悟がにじんでいた。



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その後


彼は俺を鞄にしまい、静かに球場を後にした。

数か月後、テレビで彼の姿を見かける。

ユニフォームは違えど、新しいチームでマウンドに立っていた。

笑顔で、全力で投げていた。


俺は思う――戦力外を告げるのは終わりじゃない。

時に、それは新しいスタートの合図だ。


封筒の中で静かに黄ばんでいく俺は、それを知っている。

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