第4話 エロ漫画
『エロ漫画転生 ~中身を見ないでください!~』
目を覚ましたら、俺は本棚の中にいた。
いや正確には――俺自身が一冊の漫画だった。
手触りはツルツルのカバー、ページはしっとり厚め。
タイトルは……言えない。いや言わない。この作品は全年齢向けだから!
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最初に俺を手に取ったのは、大学生くらいの青年だった。
「おっ、新刊じゃん」
そう言ってニヤリと笑う青年に、俺は心の中で全力で叫んだ。
「待て!違うんだ!俺、中身は見せられないんだ!」
青年は部屋に戻ると、そっとページをめくった。
……と思ったら、急に閉じた。
「おっと、まだ夜じゃないしな」
助かった。
だが、どうやら俺には“夜にだけ出番が来る”らしい。
普通の漫画や絵本みたいに、昼間に読まれることはなかった。
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ある日、友達が遊びに来た。
青年は慌てて俺を本棚の奥に押し込む。
「見られたらヤバいからな」
――いや、それ俺も恥ずかしいから助かるけど!
だが、その奥には長く置かれたままの古い雑誌や写真集があった。
「お前、初めてか?新人」
低い声で話しかけてきたのは、色あせた同業者。
「そのうち、表紙も色あせて、ページも黄ばんで……
そうなったら、段ボール行きだ」
「……段ボール行き?」
「倉庫か、リサイクルか、最悪は……燃やされる」
俺は震えた。
だが古参は笑って言った。
「でもな、“読まれた思い出”は残るんだ。
それがこの仕事の誇りだ」
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数年後、俺は確かに色あせ始めていた。
青年は大人になり、俺を手に取る回数も減った。
そしてある日、段ボールに詰められた。
けれど俺は不思議と悲しくなかった。
だって、俺は確かに、誰かのドキドキや笑顔を生み出したんだから。
段ボールの中で、俺は静かに思った。
――次に転生するなら、普通のラブコメ漫画になりたいな。
昼間でも堂々と読まれるやつに。
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