眠れぬ夜の御伽話

鈴道

眠れない夜に

 ベッドの中で足をばたばたと動かす。灯りの消えた部屋は暑くも寒くもないけれど、眠るにはやに目が冴えてしまっている。ベッドからはだしで抜け出して、窓を開ける。涼しい風がカーテンを揺らして、街の灯りは踊るようだった。今夜は街で秋の祭りが行われている。だけど、子どもは夜のお祭りにはいけないのだ。


「ご主人さま、お眠りにならないのですか」


 そういって肩にブランケットをかけてくれるのは、侍女のエヴェリーだった。異国の出身の彼女は、神秘的な微笑みでこちらの瞳を射通す。


「まだ眠くないんだもの」


「でもお休みになりませんと。ほら窓を閉めますよ、こんな賑やかな夜は、意地悪な妖精が入ってきますから」


 エヴェリーは窓を閉めて、カーテンレールに鈴をつけた。前に何をしているのか聞いたら、子どもが悪魔にさらわれないためのおまじないだと言っていた。彼女は布団をかけてくれながら、くすりと笑った。


「お祭りへ行きたかったのでしょう」


「ずるいんだ、大人ばっかり……」


「ならば今晩は、御話をお聞かせしましょうね……大人たちには聞かせない特別な御話です、ご主人様にだけ、お教えしますわ」


 秘密ですよと、声を落とす彼女の、ささやくような声が心地よくて、つい聞き入ってしまう。


「昔々、遥かな国で」

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