第3話
第十章 最初のデスゲーム
ついに、光一は最初のデスゲームを開催した。会場は廃工場。「椅子取りゲーム」というシンプルなルールに隠された、残酷な「死」のルール。監視カメラ越しに、参加者たちの恐怖と絶望を堪能する光一の全身は、震えるほどの興奮に満たされていた。「これが俺の求めていたものだ」。四人が死に、一人が生き残った。理想的だった。その結末は、彼にとって最高の「作品」だった。
第十一章 自己参加への渇望
主催者としての快感にも、次第に限界を感じ始める。デスゲームを「観る」だけでは飽き足らなくなった光一は、「参加者」としての恐怖と興奮を味わいたくなった。「俺も死ぬかもしれないゲームがしたい」。その渇望は、彼に二重人格という道を選ばせた。別人格「田中光二」として、自らの組織が主催するデスゲームに参加する。
第十二章 二重人格の狂気
市役所職員、クロノスの代表、そしてデスゲームの参加者。三重生活を送る光一の精神は、限界に達していた。しかし、彼はその負荷すら快感として受け入れていた。「俺は生きている。こんなにも激しく生きている」。鏡に映る自分の目つきは鋭く、笑い方は邪悪になっていた。だが、それが「本当の自分」だと、光一は確信していた。偽りの自分を脱ぎ捨て、真の自分として生きている。その事実は、彼の狂気をさらに加速させた。
第十三章 水面の向こう側
光一の頭の中では、次のデスゲームの構想が鮮やかに描かれていた。観覧車ルーレット。冷酷な舞台装置。しかし、彼の日常に、思いがけない「現実の舞台」が訪れる。広瀬川沿いを歩いていた光一は、水面に落ちた少女の叫び声を聞いた。彼の脳裏に蘇ったのは、デスゲームの企画書ではなく、スキューバダイビングで培った「溺者救助の鉄則」だった。
溺れている人間に正面から近づくのは自殺行為だ。背後から近づき、呼吸路を確保する。光一の頭の中で、救助の手順が淡々と組み立てられていく。それは、デスゲームのルールを組み立てる時と同じ、研ぎ澄まされた思考だった。だが、彼の心は、これまでの冷酷な思考とは全く違う、温かい感情に包まれていた。冷たい水が全身を叩く。それでも彼は、少女を救うことに集中した。
膝が泥を踏み、指先が草を掴んだ瞬間、光一の視界は涙で滲んだ。それは、デスゲームの勝利でも、他人の絶望でも得られない、温かく、胸を締め付ける感情だった。三十二年間、彼が探し求めていた「真の充実感」が、ここにあった。
しかし、その幸福な瞬間に、冷たい手が光一を水面下へと引きずり込んだ。それは、彼が築き上げてきた狂気の「現実」からの、最後の報復だったのかもしれない。光一の視界がブラックアウトする直前、水面で笑う少女の顔が見えた。
「ま、そうだよな」
光一は、自分の人生が、最初から最後まで、誰かの「ゲーム」だったことを悟ったのかもしれない。彼の邪悪な笑みは、もうそこにはなかった。ただ、真面目そうな、静かな笑みが、最後に残された。それは、彼が本当は求めていた、穏やかな安息だったのかもしれない。
空虚な充実 奈良まさや @masaya7174
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