第24話――Next
「な……なん……で……」
裏切りだった。少なくとも、彼女にとって相棒の白猫が取った行動は。
「なんで、先輩の記憶を消しちゃうの、チーシャン!!」
腕の中で彼の身体を抱きかかえる彼女は、泣き腫らして赤くなった目で白猫を睨みつける。
「〜〜〜〜〜〜〜〜!」
「でもとかない! 私に聞かずに勝手なことしないでよ!」
これを恐れたから、こうなって欲しくなかったから、彼女は敢えて彼に『名前』を尋ねようとしなかった。
「ねぇ、どこまで消したの! 今日のこと? 昨日までのこと? まさか、昔のことまで消してないよね!?」
「〜〜〜〜〜、〜〜〜〜〜」
「掟とか、なんとか、私には関係ないよ!」
言葉を持たぬ白猫に向けた彼女の悲痛な叫びが、セメントに囲まれた硬い地下室の壁に反響する。
「やっと……やっと出逢えた人なんだよ……? 私の、憧れの……『ようせいさん』に……!」
「〜〜〜〜?」
彼女の言葉にいまいちピンと来ていない様子の白猫に、彼女は抱えていた彼の身体をそっと床に寝かせて、そしてそのまま白猫に詰め寄りその身体を両手で鷲掴む。
「〜〜〜〜!?」
あまりにも強い力に、白猫は全身の毛穴から脂汗が滲み出るような錯覚を覚えた。
「今すぐ先輩の記憶を元に戻してよ、チーシャン! でないと……でないと、私……!」
激情が噴き出したような調子の中に、冷たいものが通っていたような彼女の声。それは狂気とも呼ぶような鋭いものに、白猫が思わず
「あまりその子をいじめてやりなさんな、
可憐で気品のある声が開けっ放しになっていた地下室の扉から響いて、はっと我に帰って彼女は視線を上げる。
「えっ、その声……もしかして……」
「久しぶりね、仔猫娘。昔よりも随分とはっちゃけた様子のようで、逆に安心したわ」
そこにいたのは、青い鳥であった。
空のような真っ青とアクセントの白い羽毛に包まれ、長い首先にある頭部には白鳥のような
その仕草は水鳥のように空中をゆったりと浮遊し、時折、扇を煽るかのように翼の先端を顔の前で優雅に揺らしていた。
「バードリー!?」
「そう、光の国の華麗なる
バードリーと名乗った青鳥は不敵に笑みを浮かべるような仕草で翼を仰ぎ、そのまま春崎の白猫の近くにふわりと浮遊して近付く。
そして白猫を握る春崎の手を見つめると、青い羽先でぺしりと彼女の手のひらを叩いた。
「放してやりなさい、仔猫娘。いくらグズ猫でも可哀想でしょ」
「あ……ごめん、チーシャン……」
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
春崎の手から解放された白猫は、特に春崎に気に留めることもなく、むしろ取り持ったバードリーの方を不服そうに見つめる。
「あら、何かしら。まさか、グズと言ったことに腹を立てているのかしら」
「〜〜〜〜! 〜〜〜!」
「……相変わらず何を喋っているのか分からない奴ね。どうして仔猫娘はこれの言葉がわかるのか不思議でならないわ」
うんざりそうにため息をつき、バードリーは片翼で軽く白猫をあしらいながら春崎の方に向き直った。
「まぁ、
「バードリー、な、なんでここに……?」
「感じたのよ、悪しきクライジュウの気配を。それでこの場所を辿って来てみれば、まさかあなたたちと出会うとは思って見なかったわ」
「待って……バードリーがここに来てるってことは……」
何かを察したような春崎が視線をバードリーから後ろの方へと移す。
「ええ、そうよ。もちろん、ここに来たのはワタクシだけではないわ」
得意げに言ってみせたバートリーの背後で、何者かの足音が壁に反響しながら近付いてきていた。
「…………約三年ぶりか」
暗闇に包まれた地下室前の通路から聞こえてきたのは、さらに流麗で高潔に満ちた声であった。
「っ、あなたは……!」
「“闇の魔王”を倒したあの日以来。こうして顔を合わせるのも随分と久しいな、明依」
地下室の明かりに照らされて姿を現したのは、声の調子に相応しいほどの品位と美しさを持つ、黒髪の少女であった。
「るかみちゃん……!」
かつての仲間であった彼女の名を、春崎は口にする。
人々を陥れる闇の軍勢と共に戦い、世界を救った魔法少女。
人の目の届かない地下深くの出来事。
そこで果たされた二人の《魔法少女》の再会。
彼女らの再会は、新たなる騒乱の始まりであったことを、まだ誰も知らない。
第一章 完
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