第22話――キャットクラッシュ
迸る、桜花色の大閃光。
サクラキャットが手にする杖に埋め込まれた宝玉から放たれるハート型のエネルギーが草原の上空を
「! まずい、クライジュウ避けろ!」
「クララララ!?」
サルボが慌てて叫ぶも、尻もちをついた状態のクライジュウは身動きがとれず、そのまま光の奔流に呑み込まれた。
「――――――――ッッッッッ!!!???」
膨大な光のエネルギー。それはクライジュウの内部にある闇の力を減衰させ、その氣勢を著しく奪っていった。
「す、すごい……!」
サクラキャットの背後で腕をかざし、眩い閃光から目を背けながら、彼女が放つ大必殺技が怪物を追い詰める光景に浅田は感嘆の声をあげていた。
時間にして数秒、あるいは数分。
短くもあり、長くさえ感じる、その光に誰しもが圧倒されるばかりだった。
「…………っ」
やがて光の放出が終わると、サクラキャットは差し出した杖を一度振り下ろす。
光の放出が止んでも、クライジュウの全身にはその光の余波が包み込み、その身動きを封じていた。
そんな光景を、サルボはクライジュウの傍らでただひたすら見ていることしかできなかった。
「ク、クライジュウ! くそ、こうなったら内部のエネルギーを暴走させて……」
歯噛みしながら最後の手段を取ろうとして、ふと目の前のサクラキャットの姿が見えないことに気が付く。
「ま、待て……奴は何処に……!?」
目の前の草原の上には彼を投石によって叩き落した浅田と白猫のみ。周囲に視界を巡らせてサクラキャットを探すサルボは、やがて頭上に視線を移した。
「――ハッ!?」
クライジュウより遥か高く、大きく跳躍したサクラキャットが『ワイルドシャイニングステッキ』を両手で握り締めながら、真っすぐと光のオーラに抑えられたクライジュウを見据えていた。
「ま……まずい……!」
底しれぬ危機を覚え、サルボは痛む頭を手で押さえながらなんとか立ち上がろうとする。
「ウルトラ……ハートフル……」
サクラキャットは握り締めた得物を上段に構え、自由落下と共に振りかぶった。
「キャットスマアアアアーーーーーーーッシュ!!」
――――――◇◆―――――――
サクラキャットのトドメの一撃が巨大ドグーの正中線目掛けて打ち下ろされる。
杖もしくは棍棒のようなそれは、光のオーラに閉じ込められた巨大ドグーの頭頂部を叩き、そこから亀裂が全身に走り抜け身体が崩壊していく。
「~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!!!!」
巨大ドグーの身体が光の中に融けていく。
石柱のような足も、巨人の如き腕も全てが薄れていき、光の粒子となって空の彼方の方へと消えていく。
そいつが纏う闇の雰囲気が浄化される度、禍々しかった目元が徐々和らいでいくように見えた。
「ハレバレ〜〜〜………」
やがれ、断末魔にしてはやけに穏やかな声を上げ、巨大ドグーの姿が完全に消滅した。
「倒した……のか?」
離れたところから様子を見守っていると、舞い上がる粒子の中から光るシャボン玉のような大きな球体が二つ分宙に浮かんでいて、一つはよく見慣れた小さな丸っこい身体のドグー、そしてもう一つは見知った人影だった。
「……源先生!」
気を失った状態で宙に浮かぶ源先生の身体。巨大ドグーに囚われていた彼女が光のシャボン玉に守られながら空中からゆっくりと空中から降りてきていた。
「よっと……!」
攻撃を終えて地面に着地したサクラキャットがそのまま源先生の落下点の真下に駆け寄り、その身体を優しく受け止める。それを見ながら俺もすぐにサクラキャットの方へと走って近付く。
「サクラキャット、先生は!?」
「この通り、無事です。闇の力に侵食されたところは全て浄化しましたので、あとは安静して寝かせてあげれば大丈夫です」
サクラキャットはそう言いながら俺に先生の身体を託すように受け渡し、俺は先生の背中と膝あたりを抱えてなんとかそれを受け止めきれた。
「う、うぅん…………」
巨大ドグーの拘束から解放されたばかりだからなのか、源先生は軽くうなされていたが、徐々に落ち着くように静かな寝息に変わっていく。
「先生……良かった……」
俺が源先生の顔を見て安心している一方で、サクラキャットはすぐ近くにいたサルボの方へ対峙して睨み合っていた。
「サルスベーリさん、あなたの企みもこれで終わりです」
「くっ……おのれ、サクラキャット……! いつの間にそこまでの力を……」
「あなたと出逢った頃より私はたくさんの戦いを潜り抜けて来たんです。あれぐらいの敵なんて目じゃありません」
「……っ、伊達に魔王様を打ち倒しただけのことはある……だが!」
サルボは地面に何かを投げつけた瞬間、そこから黒い煙が噴き出して視界のすべてを包み込んだ。
「これって、目くらまし!?」
「先輩、私の後ろに!」
サクラキャットはすばやく杖を振り回すと、光の壁を展開して煙が自分たちを包むのを防いだ。
黒い煙がしばらくその場に残り続け、サクラキャットは奇襲を警戒しているのか辺りを注意深くしていると、あの男の笑い声がどこからか響いてきた。
「ウッキャッキャッ! これで勝ったと思うなよ、サクラキャット! 我は必ずや魔王様を復活させ、目的を達成させる。それまでせいぜい首を洗って待っているんだな! それと、そこにいる人間!」
「人間って……」
「もしかして……俺のことか?」
突然の指名に俺とサクラキャットは困惑した表情を互いに向けながら煙の向こう側の声に耳を傾ける。
「さっきはよくもやってくれたな。貴様のこともただでは済まさんぞ。いつか必ずやこのお礼を……アイタタ!」
どうやらまだ石をぶつけられた所が痛むようだ。源先生を抱えていなければ、もう一度石ころを投げつけてやりたいところだった。
「ダークビーストだか何だか知らないけど、俺はお前なんかには負けるつもりはない。源先生をあんなにしたことも許すつもりはないからな!」
「私も同じです。先輩はもちろん、他の皆さんにも手は出させませんから!」
「ムム……ウググ……貴様ら、言わせておけば……! 我を本気で怒らせたこと後悔するがいい、ウッキャッキャッ――イテテ……ムキャッキャッキャッ………!!」
高笑いと共に周囲を覆っていた黒煙が晴れると、既にあの男の姿は何処にも無くなっていた。
暗い色をしていた空も元通りの青空になり、周囲は静かな草原の様相を取り戻していた。
「逃げたのか……?」
「
もしかして、このダンジョンに入ってきたのもその方法なのだろうか。春崎がダンジョンの封印をぶっ壊した後に侵入した説もあるが……いずれにしてもはた迷惑な奴だった。
「それにしても……これにて一件落着ですね、先輩!」
「あぁ、そうみたいだな。あとは源先生を連れてこのダンジョンから脱出するだけだ」
本当ならこれまでのダンジョンの異変の原因とかもっと気にかけるところはあるのかもしれない。だが、源先生のこともあるしまずは身の安全の確保が優先だ。
「はい!」
俺の言葉にサクラキャットは頷き、俺たちはダンジョンの出口を目指し歩き始めた。
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