許してくれ。Part2
八月十一日の午前、広島駅へと向かった月兎一家は、未だに混乱している姿を目の当たりにしました。
線状降水帯は、福岡県から去り、博多駅までは行けることが確定しました。
では線状降水帯は消滅したのか。違いましたね。
あろうことか南下して、熊本県を中心に甚大な被害をもたらしました。町は冠水し、川は増水し、海は濁り、魚は打ち上げられ、山は崩れました。熊本県で土砂災害により車が巻き込まれた事故を知っていますよね。
お気づきですか?
月兎一家が向かおうとしていたのは熊本だと、前回のエピソードにしっかりと書かれています。そして、大雨により水浸しになった県はどこですか? 熊本です。
博多駅も未曾有の大災害により大混乱。
しかし先に新幹線に乗り込んでいた父の元へ向かう最中、弟がニジゲンノモリの袋を落としてしまいました。幸いにもグッズは一つも入っていませんでしたので、吾輩と母は、ギャン泣きの弟を引きずりながら階段を駆け上りました。
しかし、袋が空だと知らない父にそのことを言うと、ものすごく焦りながら新幹線を出て行きました。
月兎一家が乗った新幹線は自由席で、座席や通路には空きがないほどの大混雑。その中で、父は勝ち取った二席を吾輩、母、弟に譲りました。席の手すりを上げて、決して広くはない席に詰め込んで座りました。前の席の人がリクライニングをしており、その前に一番大きいキャリーケースを置いたので、そこの席に座った吾輩は足を潰されそうになりながら熊本へ向かいました。
幸い、父は改札のすぐ外で袋を見つけ、更には新幹線に戻ってきました! しかし、入口付近の混雑のため、席に戻ることは叶いませんでした。人が出入りするたびにホームに降りて道を譲り、満員電車を遥かに超える人の多さに押されながらも、熊本へ向かいました。
その後も車を走らせたり、一番大きい荷物を運んだり、チケットの云々をこなさなければならなかった父のことを密かに尊敬しました。苛々のあまりに、おどおどしてばかりで曖昧な返答しかしない駅員たちにブチギレながら時間を尋ねるのも仕方ないですよね。
無事……いえ、色々なことを乗り越えて辿り着いた熊本県ですが、道は一つしかありません。走りながらレンタカー屋に向かい、通行止めになった道路を避けるためにフェリーで強行突破をする。
レンタカー屋は何事もありませんでした。
親の昼食は抜き、子供の昼食はコンビニで買った揚げ物のみ。簡素ながらも腹を満たし、港へ向かいました。
ですが。
まだ港まで二キロある道路の途中で、渋滞に巻き込まれてしまいます。
途中まで原因は不明でしたが、ズボンをたくし上げ、裸足でいる人が見えました。足の一部を指さしていました。ここで吾輩たちは、渋滞は港へ行く車によるものではなく、道路の冠水によるものだと確信しました。
というのも、周囲の田んぼや住宅街が水浸しだったからです。案の定、道路は水浸しでした。
その最中、祖母の家に向かうのに一番便利というか、一択しかなかったフェリーは欠航となりました。即ち、祖母の家で泊まるという予定は消滅しました。長崎に向かうフェリーがありますが、残念ながら、そのフェリーに乗っても、そこから熊本へ向かう最終便には間に合いません。
長崎で急遽ホテルを予約し宿泊。そしてホテルは落雷により、温泉の湯温が不安定だったり、断水が起きたりと、一筋縄にはいきませんでした。父も苛立ちながらフロントに訴えていました。
明日朝、始発便で熊本に向かうと約束し、連日遅かった就寝時間を無理やり十時に引き戻しました。
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