第14話
「お疲れさまです」
後方で待機していた冒険者たちが私たちにねぎらいの言葉をかける。どうやらけが人の手当を担当しているようだ。連れてきた冒険者二人の治療を依頼する。
「はい、承りました」
治癒魔法が使える冒険者らしき人があわただしく奔走する中に、彼ら二人も案内されていく。
「後は頼むぜ」
「引き際、見誤るなよ」
振り返ってそう告げた二人にサムズアップを返す。そうしてからちょっと柄にもないことをしてしまったかなと恥ずかしくなる。和花ちゃんが再び外へ向かおうとするので、私も再び戦場に向かう。そんな私たちに別の冒険者が小瓶を手渡してくる。私たちと同じか少し年上の女性冒険者だ。
「支給品のポーションだ。疲労は剣を鈍らせる、休息できるならしていった方がいい」
「ふふ、大丈夫よ。彼らと合流する前に少し休んだから。でも、ポーションはありがたく受け取るわ」
「ありがとうごうざいます」
私もお礼を言いながらポーションを受け取る。メロンソーダみたいな緑色の液体だ。まぁ、炭酸じゃないけど。
「女の子の冒険者には活躍してほしいからね」
和花ちゃんはポーションを腰のポーチにしまうと、お姉さんに軽く手を振って再び戦場へ駆け出した。私も遅れないようについていく。
「ゴブリンの数が思ったより多いね」
「うん、でももう大丈夫だと思う」
村の規模に対してあまりにも多すぎる数だったゴブリンたちは、冒険者たちの奮闘によってかなりその数を減らしているように見える。それでもまだ結構な数が残っている。これがスタンピードというものなのか。これだけのゴブリンが一体どこから現れたのだろう、そんなことを疑問に思いつつ、和花ちゃんが切り裂くゴブリンを風魔法を使って吹き飛ばしていく。ゴブリンにゴブリンの死体をぶつけて怯ませるのだ。
「せりゃあ!!」
少し重いと言っていた剣を振り回し、着実にゴブリンを減らしていくと、他の冒険者たちが北側が危ういという情報を伝えてくる。どうやらゴブリンが北の区画に集まりつつあるようだ。それを聞いて和花ちゃんは迷うことなく、北に進路を向けた。
「芽依、行ける?」
「聞く前に進み始めてるよね。いいよ、和花ちゃんと一緒ならたとえ火の中水の中だよ」
「まぁ、火も水も使うのは芽依の方だけどね」
そんな軽口を交わしながら進むと、徐々に血の臭いが濃くなっていった。絶命した冒険者が何人か伏している。彼らの遺体を避けながら進んでいると、剣戟の音が聞こえた。
「親玉がいるのかもね」
和花ちゃんはそれだけ呟くと歩を速めた。冒険者たちが集まっているのが見え、そしてその中に一際大きな影があった。退避する冒険者の一人からその正体を教わった。
「あれはゴブリンキング、お嬢ちゃんたち、悪いことは言わない。君たちは向かうべきではない」
「ご忠告ありがとう。でも、行くわ。斬りたいのよ」
ゴブリンキングはジェネラルよりさらに大きく、私たちは見上げねばならない。その巨体に相応しい大きな剣で配下であるはずのゴブリンごと冒険者に斬りかかる。冒険者が魔法を放つも、手近のゴブリンを盾にして防いでしまう。そんな悪逆極まりないゴブリンキングを見上げながら和花ちゃんは口角を上げてニヤリと笑みを浮かべた。その獰猛な横顔に、私は覚悟を決めて、近くに斃れている魔法使いタイプであっただろう冒険者の杖を拾い上げた。
「やるよ、芽依」
「和花ちゃん、まかせて!」
私たちはもらった小瓶をチリンとぶつけて、ポーションを呷った。
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