【追放されたSSS級冒険者】〜本当は世界最強の俺、スローライフを始めたいのにどうしてこうなるんだ?〜

ちゃま

第1話

「お前はもう、俺たちの足枷だ」


長年、共に死線を潜り抜けてきた仲間の口から、冷たい言葉が紡がれた。SSS級冒険者として幾多の伝説を打ち立ててきたアッシュ・フェンネルにとって、それはまさしく青天の霹靂だった。


「……足枷、ね」


自嘲気味に呟いたアッシュの胸には、怒りよりも深い疲労感が広がっていた。強すぎる力は、時に周囲との間に見えない壁を作る。それは理解していたつもりだったが、まさかこんな形で突きつけられるとは。


「今日限りで、お前は『暁の剣』のメンバーじゃない。二度と俺たちの前に現れるな」


リーダーのギルドは、そう言い放つと、他のメンバーと共に冷たい視線をアッシュに向けた。その瞳に、かつて共に笑い合った面影は微塵も残っていない。


(ああ、そうか。もう俺は、必要とされていないんだ)


すとんと腑に落ちた瞬間、これまで張り詰めていた何かがぷつりと音を立てて切れたような気がした。


「……わかった」


短い返事だけを残し、アッシュは背を向けた。背後から聞こえる仲間たちの安堵の息が、彼の決意を後押しする。もう、誰かのために無理をするのはやめよう。これからは、自分のために生きたい。


そう決めたアッシュは、冒険者ギルドを抜け、人里離れた静かな村へ向かうことにした。喧騒とは無縁の地で、小さな家を借り、畑を耕し、穏やかな日々を送る。それが、今の彼の唯一の望みだった。


数日後、アッシュは深い緑に囲まれた小さな村に辿り着いた。澄み切った空気が心地よく、鳥のさえずりがどこからか聞こえてくる。村人たちは皆穏やかそうで、静かながらも生き生きとした空気がそこにはあった。


古びた小さな家を借り、最低限の荷物を運び入れる。長い旅の疲れからか、すぐに眠りに落ちたアッシュは、穏やかな眠りの中で、ずっと忘れていた安らぎを感じていた。


翌朝、爽やかな目覚めを迎えたアッシュは、窓から差し込む暖かい日差しに目を細めた。庭には小さな畑があり、昨日見た老夫婦がもう手入れをしている。


彼らに挨拶でもしてみようか。そう思い、玄関を開けた瞬間、か細い声が彼の耳に飛び込んできた。


「おじいちゃん、また熱が出てきたみたい……」


隣の家から聞こえた少女の声に、アッシュは短い溜息をついた。世界を救うような大それたことはもうこりごりだが、目の前の困っている人を見過ごすほど、彼の心は冷たくなりきれてはいなかった。


(まあ、少しだけなら、手伝ってやってもいいか)


そう呟くと、アッシュは静かに隣の家の戸をノックした。彼の計画していたスローライフは、どうやら最初から少しだけ軌道修正を余儀なくされそうだった。

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