第3話 思い出話しながら入っちゃう部屋

「……とりあえず生きてるね」


「部屋を出た瞬間にパンッ! て撃たれるかもって0.1%くらい考えてた」


「はぁ~~~~苦しかった。わたしは別に気持ちよくはなってないから」


「それにしてもここはどこなんだろ。デスゲームのゲームマスターってこういう抜け道的なところに入ると現れるものじゃないの?」


「なんだか昔を思い出すね。二人で一緒に山に入っちゃってさ。最初はわいわい話しながら探検してたのに暗くなってきたら不安になっちゃって。わたしが耳元で大丈夫だよってささやいたら顔を真っ赤にしちゃって」


「子供の頃から耳が弱いザコザコ変態さんだったよね。まあ、そのおかげで声優を目指す自信がつ……って、そんなこと話してる場合じゃないか」


「階段とか見当たらないね。ビルだと思ってるけど実は平屋だったりして」


「この雰囲気でそれはないか。そうだよね」


「ゲームマスターさ~ん。いませんか~」


「呼んだら応えてくれるかもしれないじゃん」


「耳がよわよわのザコザコの変態さ~ん」


「……あれれ? 返事がしないぞ? 聞こえなかったのかな」


「ふぅ~~~~~~。耳がよわよわでぇ、ザコザコのぉ、へ・ん・た・い・さん」


「はい、よくできました。ちゃんとお返事して偉いね。いい子いい子」


「子ども扱いするなって? でも、昔からわたしがお姉ちゃんポジションだったでしょ? 今だってマウントを取られてるし、耳元でささやくとへなへなのザコザコになっちゃうくせに」


「他に誰も……ゲームマスターくらいは見てるかもしれないけど、もっと自分の気持ちに正直になろうよ。もっとわたしの声が欲しいならメイドの土産にサービスしちゃうよ。ご主人様」


「ふ~~~ん」


「ご主人様ってメイドがお好きなんですね」


「冥土じゃなくてメイドに反応するなんてわかりやすいなぁ」


「メイドに耳を責められたいなんて変態の中の変態ですよ。ご主人様」


「耳元でささやかせるためにわたしをメイドとして雇ったんですかぁ?」


「そんな業務内容聞いてないんですけど、労基に訴えますよ」


「いいんだよね。労基で。どんなとこか知らないけど」


「そもそも日本ってコンカフェ以外にメイドっているのかな。家事代行はてきぱき仕事をこなして帰るイメージだし、この世界に本物のメイドはいないのかもしれない」


「だからみんな妄想を膨らませるんですよね? ご主人様」


「相変わらず不意打ちに弱いなぁ」


「そんなんじゃゲームマスターからの不意打ちににも負けちゃうぞ? 不戦勝っていうのはなんか納得いかないなぁ」


「ちゃんと戦ってくださいね。ご主人様」


 カツカツカツカツ(二人の足音が廊下に響く)


「さっきのサウナはどこにあるんだろ。他に部屋も見当たらないし、どういう間取りなの!?」


「ご主人さまぁ。わたし、こわいですぅ」


「…………ここで頼りになる一言が言えないからよわよわのザコご主人様なんですよぉ」


「でも、手をぎゅっと握ってくれるんですよね」


「恐いからじゃなくて、わたしを守るために」


「そういうところが大好きですよ。ご主人様」


「あ! 部屋がある。いったん入ってみよ。全部のデスゲームを攻略したら出られるかも」


「もしくは、メイドのためにご主人様が負けてくれてもいいんですよ?」


「昔みたいにわざと負けるつもりはないですからね」


「幼馴染のメイドはしたたかなんですよ?」


 ガチャ(ドアを開ける音)


「あれ……? この部屋……でも、ちょっと違うか」


「もしかしたらここは、××しないと出られない部屋かもしれませんよ。搾り取られる覚悟をしてくださいね。ご主人様」

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