第16話 旅する殺人者

 旅する殺人者。信也しんや青年は、優雅かつ不吉な二つ名を持つ。

 この世の者とは思えない凄絶な美貌。頭脳明晰で、自分の欲に対してどこまでも忠実。

 信也は桂司けいじという恋人と旅をしている。

 二人は見たいものを見、食べたいものを食べる。長いハネムーンの最中なのだ。

 ちなみに、桂司はいつも風呂敷包みを大切に抱えている。真偽は不明だが、中には桂司の妹の身体の一部が入っていると言う。

 悪いことは言わない。復讐は諦めなさい。

 学園長室で、学園長は訥々とつとつと語った。窓の外は、すっかり暮れていた。

「ほぼ化け物じゃないか」

 真渕まぶちは、立ち上がった。

「ほぼではなく、化け物です。だから、関わらないで」

 桐花きりかは、顔を上げた。

「私、向こうから話しかけられたのですが……」

 学園長は、頭を垂れた。

「実は、十年ほど前、例の二人が棚橋たなはしの本家に逗留していたのです。どこからどう見ても、普通の子供でした。あの子たちを家に招かなければ、桐花がここまで苦しむ必要もなかったのに」

 ひかるは唸っていた。

「と言うことは、旅の殺人者に悪意はない訳ですよね? 小さな子供が好奇心から蟻の巣に水を注ぐようなもの……。ただ、無邪気なのですね」

「余計、タチが悪いよ!」

 真名実まなみが、憤慨する。

「なら、向こう三年間、私たちはここに留まっていればいい。学園長権限で、面会したいと言ってきても、拒否はできますよね?」

 学園長の目をじっと見る。叔母は、息を吐いた。

「あれから、十年でしょう。例えば、教員免許を持っていたらどうします?」

「ひっ……!!」

 心臓が痛い。

「でも、恋人がいるのでしょう? いくら何でも学内で、連続殺人なんて品のないことができるかしら?」

悪戯いたずらってのは、隠れてやるから楽しいものなんだよ。鬼のお姫様」

 真渕が馬鹿にする。

「その時は、さすがに通報しますがね」

 夜も遅いので、寮の自室へ帰った。

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