第14話 真実

「ところで、棚橋たなはしさんは何をそんなにビクついているんだ? 棚橋さんが真渕まぶちのお兄さんを殺したって話ならともかく」

 中村なかむらが冗談めかして言った。俯く、桐花きりか。真渕が机に身を乗り出す。

「ちょっと待て! 殺してない! 鬼のお姫様は、俺の兄貴を殺してないからな!?」

「え……?」

 ぽかんとした表情。すぐに首を振る。

「そんなはずはありません。真渕家で長男のお葬式があったのだと父から聞きました。その方は存命ではありませんよね?」

「ああ、やっぱりだ!」真渕が頭をかきむしる。「学園長が言っていたんだ。会って話せば解ると。このことだったのか」

 茫然自失のひかる真名実まなみが、顔の前で手を振る。

「おーい、ひかるん。大丈夫?」

「よかった。よかっ……たあ!!」

 えんえん声を上げて泣く。真名実が抱き締めて、よしよしする。

「どうして、あなたが泣くの?」

 首を傾げる桐花。光は口で手袋をくわえ、外した。長袖ブラウスの手首のボタンを外す。

「ああ……」

 桐花は得心した。白い腕には刃物でえぐられた傷跡。

「雨が降ると、あなたは辛そうにしていたものね」

 こくんと頷く。

「見てのとおりだ。うちのクソバカ兄貴がそこの水瀬さんをメッタ刺しにした。怒った鬼のお姫様が仕返しした。接点はそれだけだよ」

 確か、一緒に遊ぼうと誘われて断った。そんな理由だったと思う。

 桐花は唇に指を置き、ゆっくりとまばたきした。

「いづみは? 私の従者は、誰に殺されたの?」

「それはまた別件だ。子供だし頭に血が上っていただろう。従者に助けを呼ばせに行ったんじゃないか?」

 桐花が眉間にしわを寄せる。

「うん、そうだと思う」

 中村が指を鳴らす。

「そいつが真犯人だ。水瀬さんの救助後、そいつは現場に戻ってきたんじゃないか?」

「二人は誰が助けに来たか覚えてる?」

 桐花と光は、首を振った。真名実が溜息を吐く。

「まあ、状況が状況だからねえ」

「私、ずっとあいつが二人を傷つけたんだと思っていた。そうね、それでは助けを呼びに行けないもの。真渕君の言うとおりだわ」

「従者というくらいだから、二人一組のはずだものな。さすがに犯人もそれは避けるだろう」

 中村が続ける。

「と言うことは、真渕君のお兄さんを殺したのもその人?」

 急に背筋が冷たくなる。

「うちの兄貴も全身に傷があった」桐花を盗み見る。「でも、それは致命傷ではない。それでも、虫の息ではあった。だから、被害にあった」

 真渕は体内に証拠が残っていたと言った。直接的な死因は、首を絞められたことによる窒息だとも。

 中村は新聞のコピーを見せた。いづみの状況もほぼ同じだ。

「犯人は捕まってないの?」

 真名実が不安そうに問う。

「棚橋桐花さん。連続殺人犯は、十中八九、君の知り合いだ。心当たりはないかな?」

「そんな……。そんなことって」

 これで、お開きとなった。






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