静寂の魔術師は死神の剣士に暴かれる

@Rinka_00_

第一章

プロローグ

 人の大きさをはるかに超えた、巨大な魔物を前にする。足はクモのように八本あり、それぞれの足には刃やらハサミやらが生えている。八本の足を器用に使って冒険者たちの攻撃をなんなく防ぐ。冒険者たちは体力が尽きたのか、息を切らしている。私、ソフィア・ルストロールはそんな冒険者たちを横目にして、目の前の魔物に手をかざす。

「──燃えろ」

 無言で魔法を使うのは、何か味気ないと感じたので短く詠唱する。

 刹那、魔物はごうっと音を立てて赤く燃え盛る炎の中でばたりと倒れた。私は魔物から素早く魔石を回収し、冒険者たちが何か言っていたが気にせずダンジョンを後にする。ダンジョンからしばらく歩くと町中まで出てこれる。商人や町人たちでにぎわっている所を急ぎ足で抜け、薄暗く細い近道を通った先には白く塗装された立派な屋敷が目に映る。この屋敷はルストロール侯爵家の屋敷である。私はルストロール侯爵家の当主、ロードスト・ルストロール侯爵の一人娘で、いわゆる貴族だ。

 屋敷の前まで来た私は裏庭に回り込み、使用人らに見つからないようにこっそり自分の部屋に戻る。なるべく音をたてないように扉を閉じると、小さく息を吐く。今日もなんとか使用人にバレずに部屋に戻ることができた。ダンジョンに行くときはいつも日が昇る前に出かけて、使用人らがお昼休憩の時間を狙って帰ってくるようにしているため、使用人たちは私がダンジョンに行っているなんて夢にも思っていないだろう。おかげで今回は前よりも大きい魔石を回収できた。

 魔石というのは、魔物の魔力の塊のようなもので、大きさ、濃さ、質量などでその魔石の価値が決まる。私はたくさんの魔石を集めている。その魔石で何をしているのか、それは研究だ。魔石というのは冒険者や商人にとって身近なものだが、謎に包まれている。大陸中の研究者たちが魔石を研究しているが、いまいちよく分からないらしい。研究者でもわからない謎を私なんかが解けるなどとは思っていない。私が魔石を研究するのは、単に魔石が好きだからだ。美しく輝く魔石には、昔から興味があった。商人からわざわざ魔石を買っていると、いくらお金と時間があっても足りないので、自分でダンジョンに潜り、魔物を倒して魔石を回収するようになった。たしか5年前だから……12歳の時からだ。

 冒険者ギルドには偽名を使って登録している。職業はもちろん魔術師だ。私は昔から魔術が得意で、それなりに使える自信がある。登録の時に魔力量を測定したのだが、私はSランクならしい。Sランクは伝説上でしか存在しないのだとか。

まぁそのあたりには興味がないので詳しくは知らないけど。そんな私は、冒険者たちの間でこう呼ばれているらしい。──静寂の魔術師。

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