ずっと「普通」でいたかっただけなのに。~神通力少女の夢と現実~
宇宙 翔 (そら かける)
プロローグ〜第1話 地縛霊で自爆
プロローグ
N市 某古寺。
修学旅行で訪れた学生服姿の生徒で寺の内外とも賑わっている。
朱色の柱と土壁に囲まれた薄暗い本堂の中、ある観音像の前で語り合っている男子学生二人。
「仏像ってさ、元々悟りを開いた釈迦をモデルにしてるから、メインの如来像って普通に人っぽい姿なんだけど、悟りを開く前の修行中って設定の観音菩薩って、目が三つあったり腕がたくさんあったり、人間離れした見た目で人を救う設定なんだよな。修行中の方が一見強そうってなんか不思議じゃない?」
「お前そんなの調べてきたの?(笑) うーーん、まぁマンガとかアニメでも見た目ゴテゴテしたキャラより、スッキリした見た目のキャラの方が逆に強かったりするし。もしかすると昔からキャラ設定ってそういうもんなんじゃね?」
「確かに! そういうパターンか。釈迦の弟子の一人なんてさ、
「何それ? 一人で軍隊を撃退とか無双っぷり半端ないな。俺、仏教って悟りとか念仏とか説教とか、地味で大人しい印象しか無かったわ」
「人を救う宗教だからね。でも色んな側面があって、仏像なんかよく見てみると、キャラ立ってるし派手で迫力あるの多いんだよ。でもさ、大昔にはるばる海を超えて凄い熱量で伝えられてさ、大勢の人に信じられていた超常の姿や神通力ってその後どこにいったんだろうね。今は『超能力』って言葉で語られることはあるけど、『神通力』なんて単語聞くこと無いしさ」
「まぁ当時としてはそんなファンタジー設定と用語がすごくリアルに感じられただけじゃね? 現代でも空想話なのに本当に現実にある気になっちゃうSFヒーロー映画とかアニメとかマンガがあるしさ」
「うーーん、そういう空想世界もわかるんだけど、ただのファンタジーだと人が真剣に信じて後世まで延々と伝わることって無い気がするんだよな。現実に何かは本当にあったんじゃないかな……。それで意外とそんな力が現代にも密かに伝わっていたりして。まぁ個人的な願望も大分入ってるけど」
眼が三つ、腕が八本、それぞれの腕に
第一話 地縛霊で自爆
わたし
両親を小さい時に事故で亡くし、その後は母方のおばあちゃんに引き取られ、今も一緒に住んでいる。
周りから想像されるほど今の生活が凄く不幸なわけじゃないけれど、周りの子と同じように両親と一緒に『普通』の家族生活を送りたかった。
その願望のせいか、子供の頃からいつも『普通』の子でいようとしていた。
過去に失ったものはもう取り戻せないけれど、自分が『普通』でいればこの先普通の幸せを掴めるような気がしてたから。
その願いは小学四年生の時に最初に躓いてしまった。
あれはクラス全員で課外授業に出かけた時だ。
交差点で停車中のバス。
後方窓際の席に座っている友梨奈。
窓から中央分離帯を眺めていたら、青白い顔をした若い女性が体育座りをしているのが目に入った。何であんなとこに人がいるんだろう、と思わず隣の席の子に話しかけた。
「ねぇ、あの女の人、あんなとこに座ってて危ないよね」
「え、どこ、どこ?」
通路側に座ってたその子は友梨奈の前に乗り出して窓の外を覗き込んでいる。
すぐ目の前に見えるはずだが、無駄にキョロキョロ見回してるので、その子に女の人が座っている中央分離帯の場所を指差す。
「ほら、あそこ、あそこ。なんか顔色悪いし、俯いて元気無さそうだよね」
友梨奈が指した場所をじっと見つめた後、当惑した表情を浮かべ友梨奈の方に振り返る隣の席の子。
「……友梨奈ちゃん、そこには誰もいないよ……」
「え! だって、そこに、確かに女の人いるのに……」
怯えた表情で友梨奈を見つめる隣の席の子。その後は目的地に着くまで二人とも無言だった。学校への帰途、その子は別の席に移ったらしく友梨奈は席に一人ぼっちになった。
それ以来、友梨奈は幽霊が視えるという噂がクラス中に広まり、気味悪がってクラスの女子は全員話しかけて来ないし、男子は亡霊女とか、ゲゲゲの友梨奈とかトイレの友梨奈さんとか言ってからかってくるしで最悪だった。
今思えばあの女性はあの場所に未練がある地縛霊だったのだろう。
ちなみに子供の頃は漢字で『地縛』って分かってなくて、『自爆』するほうのじばくかと思ってて、何で自爆? ってずっと謎だった。
これだけならまだ霊感が強い子ぐらいで済むはずと考えて、その後の人生では霊っぽいのが視えても見えないフリして超避けるようになった。
だが友梨奈にとっては霊が視えるぐらいのことが他人にバレても実は大した問題ではなかった。他にもっと他人には視えないものが彼女には視えていた。そのことが周りに知られたら、それこそ『普通』ではいられなくなるに違いない。世間から一体どんな扱いを受けるのか友梨奈には全く想像出来なかった。少なくとも平穏に普通のJCとして日々を過ごすことは出来なくなるのは間違いない。
自分の身に起こるかもしれないことを想像出来ない恐怖心から、本人的には普段から慎重に慎重を重ね、バレないように行動して来たつもりだったのだが、『普通』路線から完全に脱線する事態は、そんな努力を超越して、まるで天災のようにある日前触れも無く突然やって来た。
そう、あの子が友梨奈の前に現れたのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます