第56話 心に決着を

『この前のコラボすごく好評だったよ! 今度オフコラボしようよ! よかったらウチらの家に遊びに来て!』


 姫宮先輩の家からの帰り道。私は撫子先輩から1通のDMを受信した。


 梨生の家、姫宮先輩の家と来て、次は撫子先輩とメル先輩の愛の巣ときたか。急にvtuberの家に訪れる機会が増えたね。


 べ、別に役得だなんて思ってないんだからねっ!(唐突な脳内ツンデレ)


「おかえり桜子。少しは楽になったかな?」


 マンションの前でマネージャーさんに車から降ろしてもらう。その瞬間、自動ドアの奥から葵が姿を現した。


「葵! 出迎えまでありがとうね。不思議に思ってたことが繋がったよ。とはいえ根本解決に至るにはまだまだかもだけど……」


「ゆっくりでいいよ。コーヒー淹れたけど飲むかい?」


「うん! 飲む飲む!」


 私は葵の部屋に上がり込んだ。


 vtuberの家に上がり込むのは3軒だけじゃないね。


 間取りが一緒のお隣さんだから忘れてたけど、葵の部屋だって立派なvtuberさんの部屋だ。


「そういえば葵ってここに越してから昼夜逆転してないよね」


「そういえばそうだね。たぶん桜子との時間が減るのが嫌で無意識のうちに朝型生活にしているのかもね」


 ぐっ、それをサラッと言うとこ! メロいんだよ!


「そ、それはありがたいけど、リスナーは大丈夫?」


「今は切り抜き? というのがあるみたいだし、深夜に見る人は切り抜きやアーカイブを見る人も多いみたいだよ。むしろ同接は増えてるくらいさ。アナリティクスからすると10代の視聴者がね」


 なるほど、昼や夕方に配信して、ゲームという若者に人気のコンテンツを扱ってるから自然と学生視聴者を取り込めてるわけか。


 vtuberについて深く考えているのか分からないけど、結果上手くいってるのだからすごいなぁ。


「そんな葵に相談があるんだけど……」


「何でも言ってくれ。桜子の相談なら何でも聞こうじゃないか」


 葵の顔は晴れやかだった。


 しかし、


「撫子先輩に誘われてオフコラボをすることになったんだけど、葵も来ない?」


「う、うにゅぅ」


 内容を告げた瞬間、まるでレモンを丸齧りしたような顔になってしまった。本当に先輩やコラボが苦手なんだなぁ。


「ほら、撫子先輩とメル先輩ってお付き合いして同棲しているじゃん? コラボはコラボとして、それ以外にもそういうお話を聞けたら今後の私たちの参考になると思うんだよね!」


 それらしい理由を添付した。


 でも自分で言って気がついたけど、それは普通に私も聞きたいな。フレグランス同盟はvtuberの同期で付き合って同棲までしてる。


 ある意味、私たちの理想の未来の形を歩んでいる2人なんだから。


「桜子、もしかしてまだ気にしているのかい?」


「…………」


 葵の言いたいことはすぐに理解できた。


 梨生が私に問いかけた、『葵のことは同期だから好きになったのか』という質問。


 あの時私は滔々とそれを否定することができなかった。あまつさえ、同期にならなければ好きになってなかったかもしれないとさえ言い放った。


 そんな宙ぶらりんな自分への情けなさと後悔を抱えていないと言えば嘘になる。


「まぁ、正直そうだね。だいぶ気にしてる」


「桜子……」


「だから撫子先輩とメル先輩に相談しようとも思ってたんだ。そしたらお2人から誘われて、本当に私は恵まれてると思う」


 私は一拍置いて、目力を強めた。


「私は自分の心と決着をつけるよ。葵への想いは嘘偽りではないけど、ちゃんと自分の心が晴れるように、そして葵が私の想いを何の気兼ねもなく全身全霊100%で受け止められるように頑張る」


 この決意をできるまで時間がかかってしまった。


 でもある意味、梨生と親友に戻るためには自分の心を固めないといけないと思う。そうでなければ梨生に対して不誠実だ。


「分かったよ桜子。桜子の中で決着するまで、私は待ってる」


 葵は優しく微笑んで、そしてスッと立ち上がった。


「ふぇ?」


 私の肩を両手でホールドし、目線の高さを合わせてくる。


 ジッと見つめられると顔が熱くなってきて、顔を背けたくなる。でも葵はそれを許さなかった。


 な、なんかこの展開……まるでキスするみたいな……!



 チュ



「んへ?」


 葵の唇が、私の鼻先に軽く触れた。


 恐る恐る目を開くと、葵は顔を真っ赤に染めて目を逸らしていた。


「この先は……桜子の心が決まってからね」


「ひゃ、ひゃい」


 その日、私は何を食べても味がしないような気がしましたとさ。

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