第2話 放課後に見かける。
よし、放課後になれば俺の時間だ。
帰りのホームルームが終わると、俺はすぐに高校を出て、駅近くの商業施設の最上階にある映画館へと向かう。
今日俺が観る映画は『サメVSサムライ〜頂上決戦〜』(通称・サメサム)という、いかにもなタイトルであり、以前からずっと気になっていたB級映画なのだが、ネットにあるレビューによると「一度あの感動のラストを観たら絶対にまた観たくなる」らしい。
サクラだとしてももう少しマシな感想を書くだろ……と思いつつも、帰宅部で余るほど時間のある俺は、暇つぶし感覚で観ることを決めた。
とりあえずチケットを発券しないと……ん?
俺が発券しようと思って券売機の前に立つと、隣の券売機に俺と同じ高校の制服を着た、やけにスタイルの良い金髪の……え、嘘だろ。
そこにいたのは、金城愛希だった。
今朝の会話で言っていた、飽きたから変えたというシトラスの香水を匂わせながら、俺の隣で映画の券を買う金城。
(予定があるって言ってたのは、これか?)
彼氏と観に来たのだろうか?
でもその割には金城が券を買ってるのはおかしくないか? 普通は男が買うだろ。
となると、女友達だろうか?
いや、俺が知る限りでは、金城愛希は基本的に和泉としか仲良くしていないイメージがある。
飽き性が原因なのか分からないが。
(そもそも、あの飽き性の金城が映画って……開始10分で飽きるだろ、絶対)
完全に偏見なのだが、俺は映画のことよりそんなことを考えながら発券を済ませ、すぐに入場してスクリーンへと向かう。
まあ金城が観るのなんて、どうせ有名どころのアニメ映画とか人気男性アイドル主演の青臭い青春ドラマとかだろう。
俺はサメサムが上映される8番スクリーンに入り、指定した奥の方の真ん中にある席に座った。
「まだ時間があるとはいえ、客、全然いないな……」
B級映画の上映期間は短く、サメサムの上映もあと1週間くらいで終わるだろう。
この客入り(俺一人)では、当然かもしれないが。
ほぼ貸し切り状態の館内で、俺はのんびり暗くなるのを待っていた……のだが、スクリーンの入り口から突然、"ヤツ"が入ってくる。
(き、金城っ!?)
金色のストレートヘアを靡かせ、そのやけにデカい胸を縦に揺らしながら、映画の女優かと思うくらい優雅な足取りで堂々と入って来た。
(お、おいおい、なんでサメサムみたいなニッチな映画を、金城が観にきてんだよ!!!)
しかも金城はカップル用の味が分かれているクソデカポップコーンを持っており、俺の2列前に座る。
なぜ金城がここにいるのかも謎だが、なんであのクソデカサイズのポップコーンを?
やはり彼氏か友達が後から来るのだろうか……?
映画のことを考えたいのに、今は2つ前の列の席に座った金城のことしか考えられない。
いつも目の前の席に座っている時は興味もないのに、なんでこんな時に気になっちまうんだ。
すると金城は急に、むしゃむしゃと二つの味のポップコーンを交互に食べ始めた。
(あ……まさかこれ、自分用だったのか?)
二つの味があるクソデカポップコーンにしたのは、金城の飽き防止のため、なのだろうか。
勝手にそんな事を考えていると場内が暗転し、おなじみのマナー動画や映画の予告が始まる。
ま、まあ……何はともあれ、あの金城もこの映画に興味を持つんだな。
飽き性ギャルとして有名な金城のことだ……頑張ってもせいぜい半分くらい観たら、飽きて帰ることだろう。
勝手にそう思っていたが、天下の飽き性ギャルがその想像すらも上回ってくることを、この時の俺はまだ知らなかった。
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