第10話 取り敢えずステータスを確認してみよう


 カーテンを貫くような日差しが、無理くりに眠気を追いやろうとしてくるある夏の朝。

 

 結局あの後町の噴水に出戻った自分は周囲に少年の姿が無いのを確認した後眠りに就くためダイヴアウト、久方ぶりに夢も見ぬ程ぐっすりと熟睡していたのであった。

 悪夢に魘され飛び起きるでなく、朝日に照らされ起き出すなど一体何時振りの出来事なのやら、そう思い返すだけで今までの自分の不健康振りがよく分かる。


 気分爽快のまま階下へ降りれば、しんと静まり返ったリビングが出迎えてくれる。時計を良く見れば未だ朝の四時、明らかに起き出すには早すぎる頃合いであった。

 この時刻では義妹いもうともぐっすりと寝転けているのだろうか、上階の静けさを見るに今朝は何事もなく見送れるだろうか。


 ……フラグと云うものは何処にでも立ってしまうのだろうな。


 結局、上階から響く悲鳴を皮切りに、あれやこれやの大騒ぎ。朝から洗濯機はフル稼働である。

 時たま思うのだが子持ちの家には洗濯機が二台在っても良いのではないだろうか、洗えた所で干す場所がなければ意味はないか。


 てんやわんやの朝を潜り抜け無事義妹を保育園へと送り出した後、漸く家中の事へと手を付けられるようになる。

 先日から継母ははも出社し始めたのでこれより先は自分一人、継母からは「そんなに家の事はやらなくていい」とは言われたものの、居候の身で何もせぬのは幾らなんでもあり得ないだろう。


 私室までは手を出さないが、それ以外の空間はすべて綺麗に片付ける事を目標に、日夜研鑽を積んでいるのだ。今なら一人前の掃除夫として胸を張って名乗れるだろう。


 お昼は素麺で軽く済ませたら、漸く待ちに待ったゲームの時間だ。




 没入ダイヴした先は当たり前だが噴水の在る広間の片隅、昨夜まで居たその位置のままである。基本的には余程の事がない限りダイヴの位置が変わることはないそうなのだが、たまに天変地異の類いに巻き込まれてしまった場合は変わることもあるそうだ。

 今の所は眉唾物の話ではあるが。


 何だかんだと昨日は色々な事が起こった一日であったが、その成果は全くと言っていい程に手付かずのままだ。

 折角なので今日はそこからの振り返りと致したい、ついでに昨日の動画をちゃんと撮れていたのかも併せて確認しておこう。



────────────────────


 Title:―― New

 Name:アスラ

 Class:――

 Level:3

 

 Status

 ・STR10

 ・VIT10

 ・AGI15

 ・DEX10

 ・INT15

 ・MND15

 

  LAK09

  CHA25


  BP:20


 所有スキル(残り5枠)

 ・剣術

 ・補助魔術

 ・探索

 ・解体

 ・考古学


 ルーン

 ・『サイト


 固有魔法

 ・『魔眼』




 取り敢えずはこんな感じで、変わったのはレベルが2上がった点とそれに伴いBPが増えた点だろうか。後は『称号Title』の欄に何か追加があるらしいが、初日の成果としては余り目立ったものは無いように見える。

 尤も、最後の最後で死に戻りしている以上、目立った成果が無いのは当然の事なのだろうが。


 そして今回の成長に関してだが、ステータスには現状不満は無いためにBPで新しいスキルを取る事にしよう。少なくとも目晦まし等の簡単な分断手段を持たない事には、気軽に外も歩けやしない。前回の少年との共闘は、何だかんだ彼が協力的だったからこそあそこまでは行けたのだ。自分一人だけでは手が足りなかった事だろう。


 とは言え悲しいかなスキルの『共振』は取得するまでどんなアビリティが出るかは判らないのだ、初期の魔術スキル一つ取るにもBPが10は必要になる以上軽率な選択は身の破滅を招くだけ、ここから先は熟慮の末に決めなければならないだろう。BPはステータスの上昇にも使うのだから、猶の事慎重に決めなければ。



 そうして決まったのがこちらのステータスとなる。




────────────────────


 Title:―― New

 Name:アスラ

 Class:――

 Level:3

 

 Status

 ・STR10

 ・VIT10

 ・AGI15

 ・DEX10

 ・INT15

 ・MND15

 

  LAK09

  CHA25


  BP:0


 所有スキル(残り3枠)

 ・剣術

 ・補助魔術

 ・探索

 ・解体

 ・考古学

 ・初級土魔術 New

 ・錬金術 New


 ルーン

 ・『サイト


 固有魔法

 ・『魔眼』



 はい、と云う訳で成長はスキルに全突っ張してみたのだ。

 昨日の戦闘で分かった事だが、自分の身体を動かせるのと同じようにアバターの身体を動かせるのは、利点でもあり欠点でもあるという事だ。

 ハッキリと言ってしまえば今の慣れていない段階で必要以上にステータスを向上させてしまった場合、どうしたって技術面では見劣りすることになってしまう。今の自分の技量を鑑みるに、これ以上のステータスは逆に自身の技量を落とす結果になりかねないのだ。

 

 単純な話、野球のバットの直径を今の三倍に増やしてそれを振れるだけの筋力があれば、ヒットやホームランを量産することは容易くなる筈である。だがそれは選球眼やスイングの技量に依る物では無く、単にバットの当たり面積が大きいからという身も蓋もない物となるだけの話という事だ。

 或いは直截に、チートツールを使用して無双しているような物だ。つまらないにも程がある。

 

 そういった訳で新たに二つのスキルを取得した訳なのだが、ここで朗報がある。

 待望の新たなるアビリティが増えたのだ、ここで盛大に紹介しよう。


 補助魔術に増えた新アビリティ、『ストーンスキン』の呪文である!



 そう、防御力を上げる為の魔術である。残念ながら煙幕を張ったりするような魔術は土属性では無いらしい。


 なお、現在補助魔術スキルに格納されている魔術は以下の通りとなる。

 

 ・補助魔術+剣術=「シャープエッジ」

 ・補助魔術+初級土魔術=「ストーンスキン」

 ・補助魔術+『見』=「魔力視」

 ・補助魔術+解体+『見』=「致死の一撃クリティカル・スタブ

 ・補助魔術+探索=「サーチ」


 

 現状3レベルとして見れば、この数のアビリティを保持しているのは中々に凄い事なのではなかろうか。少なくとも、所持スキルの2/3に『共振』が発生しているのだ。求めていたものとは違っていても、その成果には一旦満足するべきであろう。


 

 ついでに説明すると、固有魔法の『魔眼』はこんな感じで構成した物である。


 ・『見』+=『魔眼』



 とは言えこれだけでは判らないだろうから、細かい所も説明しよう。

 元々『ルーン』とは、『魔法』とは何かの説明を意図的に省いていたのだが、そろそろ詳細の開示をせねばならぬだろう。



 『ルーン』とは、かつて神々が健在であった時に使われていた文字通りの『言語』である。『光あれ』に代表されるように、神の発する言葉とはそれ単体で大いなる力を伴う物。『ルーン』とはそんな神々の言語を模して造られた物であり、プレイヤー達はその『ルーン文字』を組み合わせて新たなる『固有魔法単語』を作り出すのだ。


 そう、魔法とはである筈なのだ。どう考えても一つのルーンから魔法を作る事など出来ない様に一見見える。


 ルーンとは、総ての人を繋げるだけの力を持つからこそのルーン、国が、人種が異なる程度で伝わらないようでは神の言語とは言えぬだろう。現実の神話にもある様に、それだけ偉大な代物なのだ。



 本当に?



 在るではないか、この現代にも。



 国が、人種が違えど通じる言葉が。



 相手に向けて、中指を立てる。首元を親指でなぞる。人差し指で十字を切って、胸の前で両手を組む。



 そう、『ボディランゲージ肉体言語』が在るではないか。




 まあ、成功するとは思っていなかったのだが。

 そもそも、補助魔術とルーンの組み合わせで新しいアビリティが出てこなかったら、その発想には一生掛かっても行き付くことは無かっただろう。

 ついでに言えばこの場合、不良在庫の処理を併せて行えたのも良き事だろうか。


 因みに『魔眼』の効果は単純に、視覚に依存する魔術の類いを任意で発動可能にするだけの代物だ。発動を悟られないように出来るのが今の所は最大の利点と言えるだろうが、正直今の所は宝の持ち腐れ感が半端ない。


 そして新しく取った錬金術に関してだが、補助魔術とのシナジーは無かったようで何も新たなアビリティが生えることは無く、ついでに専用の道具が無いと活用のしようがないので暫くの間は産廃として埋もれる事になるだろう。



 さて、そんなこんなでスキルの方は一段落として、お次は『称号』欄の方に手を出すとしようか。


 『称号』とは、端的に言えば積んで来た実績を分かりやすく表示するものと捉えてしまえば良いだろう。剣士ならば剣に関した、魔法使いならば魔法に関した称号を獲得することになるし、それ以外にも前人未到の土地に分け入っただとかどこそこの組織に所属しているだとか、その手の個人を特定するための公称のような物と思えばいい訳だ。


 因みに新しく手に入ったのは「初心者中の初心者」と「森の巧者」「通り魔」の三種類である。

 

 始めの称号「初心者中の初心者」は、死に戻り初体験で獲得出来る代物で、誰もが持っているものと考えても良いだろう。特に称号としての効果は無いが、NPCが優しくしてくれるかもしれない。


 次の「森の巧者」は、森のフィールド内で合計4種類以上のユニットを討伐することで獲得出来る称号の様だ。効果としては森の中では隠密行動に「わずかな補正」が付くらしい。


 最後は「通り魔」、これはプレイヤーを一人以上含む五人以上の人型ユニットを短時間に殺傷することで獲得できるらしい。効果は単純、人間相手への攻撃に「わずかな補正」が付く。



 正直な話どれもこれもいらないと言えばいらないのだが、空欄のままというのも寂しい物だ。取り敢えずは一番無難な「森の巧者」を付けておこう。これなら少なくとも人に見られても可笑しな事にはならない筈だ。

 


 ここ迄来て、漸くの本題である動画の確認に移れたのだが、内容に関しては割愛しておこう。正直な話、二度三度と蒸し返すような盛り上がる場面があった訳でも無し、少年の顔だけ分かり辛いようボカシを入れて、後で動画として上げる事としておこう。

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