第3話 タイムリミットまで後一年(2)



 グリフォンは上空で何回か旋回し、ボクの姿を確認すると、大きな翼を激しく何度も動かした。


 まるで風を起こすような仕草。


 そう思ったら、本物の風魔法、 風の刃ウインドカッターが襲いかかってきた。


 しかも無数に。


 あんなものを浴びたら、怪我じゃ済まない。


 あれをかわせそうな魔法。


「我の前に壁を作れ!  絶壁アースウォール!」


 続け様に詠唱する。


「黒雷よ、我の意に従い、すべての敵を撃ち滅ぼせ!  黒放電之宴ブラックスパークフェスティバル!」


 一面を黒雷が染めて、グリフォンが滑落してくる。


 周りを取り囲んでいた

竜人族ドラゴニュートも黒焦げになっている。


「まるで魔の山だな。北の森は。それよりボクは、なんで最上級魔法ばかり知ってるんだ? しかも使えるんだ?」


 完全に使いこなしていることに、自分で自分に畏怖を覚える。


 8大魔法の内、雷、炎、土はマスターしたと思ったほうがいいのだろうか。


 だいぶ上級の魔法を簡単に連発できたが。


「マナの量がかなり大幅に増えてる」


 これならそろそろギルドに入れるだろうか。


 神殿に関係するために、ギルドでSランクくらいにはなれないと。


 ギルドによっては勇者だけがなれるSSSやまたは言い方は違うけど、プラチナクラスがあると聞く。


 まずはSランクを目指そうか。


 すべてはセリアのために。


 ボクは死んだモンスターたちから、魔石をすべて集めて、袋に入れるとふと気付いた。


「収納魔法とかあると便利だよね。所謂空間魔法の一種かな? 後簡単な魔法なら、今なら無詠唱でできるかも?」


 つぶやいてから、ボクは亜空間に出し入れ簡単な収納魔法をイメージして、一回で成功した。


 これで重い魔石を持ち歩かなくて済むと、ボクは更に残っていた魔石に手を伸ばした。


 グリフォンの魔石は額にあり、このグリフォンは完全な風属性だったのか、完璧な大きさに見事な純度の緑色の魔石だった。


「これならランクアップ登録も狙えるかも。とりあえずギルドに向かうか」




 ディランがギルドに向かっている頃、光の神殿では、最高位の聖女、セリアがため息混じりに側使いの巫女に同じ言葉を繰り返していた。


「エスメラルダ帝国の皇帝陛下のプロポーズは、断ってくださいと何度も言ってるはずです」


「しかし」


「私には幼い頃から恋慕っている方がいるのです。

その方以外に嫁ぐつもりはありません」


「聖女さま!」


「もう話す事はありません。お下がりなさい」


 そこまで言って、巫女が下がると、月を見上げて切なく名を呼んだ。


「ディラン。あなたは今何してるの?」


 忘れられないとセリアは泣いた。




 翌日ようやくギルドに到着したボクは、受付嬢を相手にギルドに入るための手続きをやっていた。


「‥‥‥」


 最初は順調だったが、ランクアップ登録を申し出た辺りで揉め出した。


 証拠の提示を求められて、|竜人族《ドラゴニュートの魔石を大きく、純度の高いものを幾つか差し出したが、ボクが13歳だったこともあって大騒ぎになった。


竜人族ドラゴニュートは、子供に倒せるモンスターではないらしい。


 実は13歳というのもまずかったらしい。


 ギルドの入門規定を満たしていなかったらしい。


 普通なら、よほどの事情でもない限り、ギルドには入れない年齢だと言われた。


 堂々巡りを目の前で繰り返され、だんだんイラついてきたボクは、投げやりに告げた。


「ボクは孤児だから、養う親はいません。自分で稼がないと生きていけないんです。そういう意味なら入門規定は満たしているかと」


「それはそうかもしれんが」


「実績に疑いがあるなら、北の森に行って調べてください。竜人族ドラゴニュートやグリフォンの死体が転がってる。森もかなり燃やしてしまったから、証拠はそこら中に転がってるよ。燃えた死体」


「お前グリフォンまで討伐したのか? Sランクの冒険者でも、ソロでは無理だっていうのに。その歳でソロで?」


 驚愕の声で問われて、ボクは黙ってうなずいた。


 森を出るとき、実績を考えて、死体も収納魔法で持って帰ろうとしたけど、現場を保存することが最優先と考えた。


 こうして実績を疑われる可能性を考えたからだ。


 その場合、死体を持参することより、現場を保存して見せて、その上で魔石を鑑定させたほうが早いと思った。


 そのために魔石も大きそうなものを数個見せただけで、後は隠している。


 そもそも、収納魔法から取り出して見せた段階で、かなり驚かれてはいたのだが。


 それでも、素材分のマイナスと実績や信用とでは、実績や信用をとるべきだと思った。


「おい誰か! 早馬かいっそ転移ができるやつに北の森を調べてこいって伝えてくれ!」


 ギルド内は大騒ぎ。


 ボクは入門が認められそうな雰囲気に、受付嬢の言うままに次のテストに向かうのだった。

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