僕とラジオとニッポン放送

海猫ほたる

僕とラジオとニッポン放送

 僕が最初にはまったラジオは、ニッポン放送の『岩男潤子と荘口彰久のスーパーアニメガヒットTOP10』(通称アニメガ)だった。


 番組のパーソナリティはタイトルの通り、当時ニッポン放送のアナウンサーだった荘口彰久さんと、声優の岩男潤子さんだった。


 この番組は金曜の夜に3時間ぶっ続けでアニソンの週刊ランキングを発表すると言う、アニメ・声優好きには堪らない番組で、アニメ・声優のラジオと言えば文化放送、と言う当時の風潮の中で、アニメ関係の番組は全然やらないと思われていたニッポン放送で何故か突然、たっぷり生放送でアニメのラジオ聞けるのだから、アニメ好きである僕がハマらない理由はなかった。


 アニメガは生放送の中でアニソンのランキングトップ10をゆっくり発表していくスタイルの番組だった。

 放送時間が3時間あるわけだから、もちろんランキングトップ10だけじゃ、どう考えても時間があまってしまう。そこで、ランキングの合間に何をしているかと言うと、ゲストとのフリートークや、ラジオドラマなどのコーナー企画があった。と言うかむしろそっちのトークやコーナーの方がメインで、ランキングの方がおまけと言っても過言ではないと思う。


 現在、令和の文化放送では週末に、アニメ声優バラエティ番組の『エジソン』とアニソンランキング番組『FUN MORE TUNE』を続けて放送しているが、アニメガはこの二つを同時にしかも、『エジソン』と『FUN MORE TUNE』を足したくらいの尺を贅沢に使ってやっていたのだ。


 今思い出しても貴重な、良い番組だったと思う。


 因みに、僕の家は首都圏ではない。ニッポン放送の電波は入らない。放送受信圏外だ。そして残念ながら、地元のラジオ局では、アニメガをネットしてはくれなかった。


 ではどうやって聞いていたのか。ラジコ……ではない。当時、ラジコはまだ世の中にはなかった。そしてラジコ以前に、インターネットでの同時放送もなかった。当時はまだ、インターネットでリアルタイムに音声を送るのは技術的に難しかったのだ。


 じゃあどうやって、ネットもされてない首都圏ローカルのラジオを聞いていたのかと言うと、その方法は、とても簡単だった。


 夜に聞く。


 AMラジオの電波は何故か、夜になると遠くまで届くという性質がある。だから、本来なら電波の届かない遠くの地域でも、夜なら聞くことができたのだ。


 ただし、本来のエリアじゃないから、クリアには聞く事はできない。それなりにノイズは入る。

 聴きながらも、上手く聞こえる周波数にラジオのダイヤルをピンポイントで合わせて行く努力が常に必要だ。なにしろ、そもそも電波が入らない地域で無理やり風に乗ってふわふわ漂ってくる電波を無理やりキャッチして聞いているのだから、仕方がない。


 それでもぼくは、聞きたかった。

 なにしろ、毎週アニメ関係の人が声優さんと言った、テレビではまず聞けないゲストの人達のトークが、毎週たくさん聞けるのだ。こんな楽しい事はない。


 それに、これは個人の勝手な感想だけど、この番組、スタッフさんたちが好き勝手やってるような感じがしていて、そんな雰囲気も好きでだった。

 

 例えば、番組の最後には毎回、来週の企画やゲストの予告をするのだけど、何故かアニメ『トップをねらえ』のBGMをバックに、パーソナリティの岩男潤子さんがアニメの予告っぽい感じで読み上げていた。

 岩男さんは、トップをねらえを作ったアニメ会社の当時の最新作、エヴァンゲリオンに出演されていた方だったから、エヴァ繋がりと言う事で、トップをねらえをパロデ……オマージュしていたのだと思う。

 とは言え、現役のプロの声優さんに毎週パロディ予告を作って読んで頂くと言う、テレビではマニアック過ぎてまずできない事をやっていた。

 そもそも、アニソンランキング番組自体が貴重なのに、3時間の生放送でランキングがおまけでフリートークがメインの番組という時点でもかなり挑戦的だし、それまでの自分は、ラジオと言えばラジオ体操か、お昼に親が内職しながら聞いている地方のローカル情報番組くらいしか知らない中で、アニメガの自由なスタイルは強く印象に残った。


 僕はアニメガで、ラジオって自由なんだと言う事を知ったのだ。


 その後、僕は、ニッポン放送以外のラジオも聞くようになった。


 TOKYO FMの『やまだひさしのラジアンリミテッド』、TBSラジオの『伊集院光 深夜の馬鹿力』や『爆笑問題カーボーイ』も一時期よく聞いていた。


 どちらも、アニメガとはまた違うが、なかなかに濃い番組だった。深夜の馬鹿力は放送が終わってから放送より長い時間、ポッドキャストで延々と伊集院さんが雑談をしている時期があって、その雑談をだらだらと聞いているのが楽しみだった。


 TBSラジオだと『ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル』(通称タマフル)もよく聞いていて、タマフルは今では『アフター6ジャンクション2』(通称アトロク)と言う名前に変わったが、アトロクは今でもよく聞いている。タマフルとアトロクは最初、宇多丸さんの映画評が聞きたくて聞き始めたのだけど、この番組もまた常に挑戦的な事をやっていて、聞いていて楽しいのだ。


 そしてまた、やはりこちらもTBSラジオになってしまったが『菊地成孔の粋な夜電波』も、好きな番組だった。


 粋な夜電波は、ジャズ奏者の菊地成孔さんが基本ゲスト無しでやっていた番組で、とにかく菊地さんのトークがめちゃくちゃ面白くて聞いていた。


 特に好きなコーナーは、菊池さん行きつけの深夜のファミレスでの、周りのお客さんがただ話してる内容を思い出して、ラジオでそれをただ話すだけのコーナー。


 ファミレスでの、他のお客さんの、なんて事ない会話の内容を、ただ話すだけで、それ以上でも以下でもない。基本、オチも特にない。でも、この毒にも薬にもならない、ラジオ特有の、なんとも言えない味わいが、僕は好きだった。


 文化放送だと、最近はあまり聞かなくなってしまったが『エジソン』が好きだった。エジソンもまた、挑戦的なコーナーをやっていて、例えば水樹奈々さんゲストの回で、他の番組では散々色々聞かれているだろうからエジソンでは他では聞けない事を水樹奈々さんに聞いてみよう、という企画で、ひたすらどうでも良い事ばかり聞くというコーナーをやっていたのが面白かった。


 文化放送だと他には『鷲崎健のヒマからぼたもち』が好きだった。こちらは鷲崎さんが割と毎回緩い内容でやるラジオだったのだけど、そもそもアニメ界に幅広い顔を持つ鷲崎さんなのでゲストが毎回凄い豪華だった。こちらは初回からずっと聞いていたのだけど、終わってしまって残念だった。


 ヒマからぼたもちが終わってしまったので、聞く時間が余ってしまい、他に何か面白いラジオ番組はないかな……と僕は探したのだけど、その結果、久しぶりに面白い番組を見つけた。


 その名は『周央サンゴのオールナイトニッポンオルタナティブ on ANNJAM』


 ニッポン放送だ。そういえば僕はオールナイトニッポンはあまり聞いてこなかった。アニメガ以降あまりニッポン放送の番組を聞いていなかったのだけど、久しぶりに僕はまたニッポン放送の番組を聞く事になった。


 この番組はニッポン放送の地上波ではなくて、ANN JAMというアプリ限定で聞けるネットラジオなのだけど、ちゃんとニッポン放送から生放送されている正真正銘のオールナイトニッポンなのだ。


 番組パーソナリティは、にじさんじのVTuberとして活動されている、周央サンゴさん。

 そして番組パートナーはニッポン放送アナウンサー吉田尚記アナの後輩、VTuberの一翔剣さん。


 吉田尚記さんと一翔剣さんの関係性に関しては、ここでは敢えて触れないでおくのだけど、僕がこの番組を聞くようになったのは、たまたま周央サンゴさん、(ンゴちゃん)のYoutube配信のアーカイブをみて、この方はむちゃくちゃ話が面白いなと思って、もう少し聞いてみたいと色々調べてみたら、ラジオの方もやっていると知って、オールナイトニッポンのアプリをダウンロードして聞いてみた事が始まりだった。


 今やニッポン放送の電波は無理やり夜に聞かなくても、アプリから簡単に聞く事ができる。便利な時代になったなと思う。


 そして、ンゴちゃんのANNを聞いてみたのだけど、これがめちゃくちゃ面白くて、すっかりはまってしまった。


 ンゴちゃんのANNの面白い所は、放送自体の尺は毎週1時間半(別途有料のおまけコーナーもあるが本編自体は無料で全部聞く事ができる)だけど、毎回、オープニングテーマが盛り上がりすぎて、ほぼ毎週それだけで終わる。

 コーナーも何種類か用意されているけど、毎回、オープニングトークで時間がなくなってしまうので、なかなかコーナーをやる時間がなく、大抵はコーナー無しで終わる。

 むしろ、コーナーがある時の放送の方がレアだったりする。


 そして、そんなに毎週盛り上がるオープニングトークとは何かというと、『一番強そうなひらがなの文字を決める』とか『揚げたら美味しそうな東京23区の形を決める』とか、毒にも薬にもならないどころか、もはや意味が分からないトークテーマだったりする。つまり、意味が分からないテーマをほぼ妄想だけでで話している。それなのに、なんか聞いているとそうかもな……と思ってしまうと言う、ほぼ妄想なのにちゃんとリスナーが納得させられてしまうトークをしている。しかもそれで時間が足りなくなってコーナーが毎回なくなる。凄い。ラジオ長年聞いてきたけど、こんな番組滅多にない。もう凄いとしか言いようがない。


 パートナーの一翔剣さんも、ちゃんとタイムキープしてるようでいて、実際にはンゴちゃんに乗っかって二人で悪ノリしてる感じがまた良かったりする。一翔剣さんの知識でンゴちゃんの妄想をさらに補強してカオス度合いが上がって行くのが聞いていて楽しい。


 ただし、オープニングトーク以外に毎週やっているコーナーも、ちゃんとある。


 それは何かと言うと、天気予報だっりする。


 そして何故か、この天気予報のコーナーもぶっ飛んでいるのだ。


 この天気予報、ンゴちゃんがニッポン放送のベランダに出て、直接外の空気を感じながら、全国の天気予報を読み上げるのだ。それだけだ。それだけなのだけど、ほぼ毎週、ンゴちゃんは天気に文句を言う。寒くても文句を言うし、暑くても文句を言う。そして文句を言う相手は『天気』。一体、何に対して毎週そんなにキレているのかというと、相手は天気。天気にキレるだけのコーナー。それがこの番組の天気予報。


 かつて、菊地さんや宇多丸さんのラジオでは、交通情報のコーナーで交通情報の人も絡むトークをしていたけど、天気予報で天気に文句を言ってる人は、聞いた事がない。


 アニメガでラジオの面白さを知ったけど、令和でもこんな面白いラジオを聞けるのは、とても嬉しい。


 これからも僕は、ラジオを聴き続けるだろう。いつの時代も、ラジオは自由でいてほしい……なんて思う今日この頃だ。

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僕とラジオとニッポン放送 海猫ほたる @ykohyama

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