金木犀

 それはオレンジ色の小さい花が、細い枝に無数に咲くのです。

 白い花もありますが、それは香りが遠くまで飛びません。



 夏の終わり、冬の始まりの間にある刹那的な時期に届く香りで、独特の──自己主張をしたかと思うと、ぽろぽろと敢え無く終わりを告げていく花。



 僕は特に自己主張できる程のものもないし、強いて言えばその花の足元で、朽ちている葉にもならないつまらない存在かもしれない。



 でも、その芳醇な香りを届けたくて、一生懸命ティッシュに集めて持って行く。

 脆く薄い紙切れに、落ちた花を集める。


 砂が混じっていたのかもしれない。



 届けたかった人に渡す。


 喜んでもらいたかっただけ。


 

 朽ちた花、汚れた砂…そして、それを持ってきたつまらない僕。




 ゴミ扱いされました。



 僕には何も届けられない。匂いすらも届かない。



 後で知りました。それはご不浄の近くによく植えられていた木。


 臭いものを刹那でも覆い隠すための花だったと。



 花は茶色く変わり、葉と共に朽ちて、次の花の養分になる。




 あの花──、金木犀には気をつけてください。あれは芳香を放ち、覆い隠すだけのものではないことを。




 成長が早くて、厄介な木。



 何れあなたを追い越す事を。



 



 



 

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