第25話 隠された部屋

 サジェードの元にこれ以上いても成果は得られなさそうだったので、私とイルドラ殿下は屋敷の中を見て回っていた。

 ここにメルーナ嬢がいるかどうかは、まだわからない。騎士達曰く、屋敷の部屋は全て見て回ったが、見つからなかったそうだ。

 もしかしたら、仮にサジェードが首謀者だとしても、彼女はここにはいないのかもしれない。屋敷に隠すのを危険だと思って、どこか別の場所に連れて行っている可能性はある。


「あれ? ウォーラン殿下?」

「うん? あいつは何をしているんだ?」


 そこで私とイルドラ殿下は、ウォーラン殿下を見つけた。

 彼は、屋敷の壁に体を引っ付けている。その様は、少々滑稽だ。

 しかし、それが何の意味もないことという訳ではないだろう。ウォーラン殿下のことだ。きっと、何か気になることでもあったのだろう。


「ウォーラン」

「兄上、それにリルティア嬢……」

「ウォーラン殿下、何をされているのですか?」

「この壁の中から、音が聞こえるような気がするのです」

「音?」


 ウォーラン殿下の言葉に、私とイルドラ殿下は顔を見合わせた。

 それから私達も、壁に耳をつけてみる。すると確かに、音が聞こえてきた。何かと何かが、ぶつかるような音がする。


「まさか、この壁の中に部屋が?」

「ええ、その可能性もあると思うのです……誰か、いますか?」


 ウォーラン殿下は、壁を叩いて呼びかけた。

 しかし、返答は特に返ってこない。仮に中に部屋があるとしても、誰もいないということだろうか。


「今からこの壁を壊します」

「え?」

「お、おい……」

「誰かいるなら、できるだけこちら側の壁から離れてください!」


 ウォーラン殿下は、困惑する私とイルドラ殿下のことを気にせず、壁を殴り始めた。

 壁を壊すという手段がそもそも乱暴であるし、殴った程度で壁を壊せるとも思えない。

 そう思っていたのだが、私は辺りから軋むような音が聞こえてくることに気付いた。どうやらここの壁は、全体的に薄くなっているようだ。


「ウォーラン、入り口を探した方が……」

「おらぁっ!」


 ウォーラン殿下が蹴りを放った瞬間、勢いよく壁が砕け散った。

 それによって、その中が見えてくる。薄暗いが、私にはすぐにわかった。その中に一人の女性がいるということが。


「メルーナ嬢!」

「う、あっ……」


 壁際に寄りかかって力なく座っているのは、間違いなくメルーナ嬢だった。

 どうやら彼女は、かなり憔悴しているらしい。こんな所で自由を奪われていたのだから、それは当然だ。

 とはいえ、彼女は確かに生きている。それは何よりも、安心できることだ。


「メルーナ嬢、大丈夫ですか?」

「リルティア様……ですか?」

「ええ、リルティアです」


 私は、メルーナ嬢にゆっくりと歩み寄った。

 とりあえず彼女の顔色を窺ってみる。私は医者ではないため正確なことはわからないが、それ程悪いようには見えない。

 辺りを見渡してみると、皿やコップといった食器類がある。どうやら食事はきちんと与えられていたようだ。


「これは……」


 そこで同時に気付いたのは、メルーナ嬢の足には足枷がつけられていることだった。

 サジェードは彼女の自由を奪い、ここに監禁していた。それはなんとも、非道なる行いだ。

 ただ、彼が命を奪うことを躊躇う人だったということは、不幸中の幸いだといえる。


「メルーナ嬢、無事で何よりです」

「あなたは……ウォーラン殿下。それにイルドラ殿下も」

「ああ、メルーナ嬢、大丈夫か?」

「え、ええ、一応は……」


 メルーナ嬢は、二人の王子の方にも目を向けた。

 突然やって来た私達に、彼女は少し混乱しているようだ。

 こんな所では、外の情報なんてほとんどわからないだろう。いやもしかしたら、昼夜すらわからなかったかもしれない。


「お二人とも、辺りに鍵か何かはありませんか? この足枷を外したいのですが……」

「鍵か? 周囲には見当たらないな……」

「か、鍵なら、サジェード様が持っていると思います」

「まあ、どの道奴には話を聞かなければならないからな……まあ、奴の部屋も調べているだろうから、そこで見つかっているかもしれない」

「とにかく、人を呼んできた方が良さそうですね……」

「それなら問題はない。派手にやったからな。騎士達も騒ぎを聞きつけて、こっちに来ているだろうさ」


 そこでイルドラ殿下と私は、改めてウォーラン殿下が蹴り破った壁を見た。

 その壁は、すごいことになっている。ウォーラン殿下は、なんというか強引だ。


「何があったのかはよくわかりませんが……皆さんがここに来たということは、もう安心しても良いということ、ですか?」

「ええ、ご安心ください、メルーナ嬢。これ以上、サジェードの好きなようにはさせません」

「ウォーラン殿下……」

「当然、サジェードには裁きを下す。奴は往生際も悪い最低の男だ。情状酌量の余地なんてものもない」

「イルドラ殿下……」


 ウォーラン殿下もイルドラ殿下も、その表情を強張らせていた。

 多分、私も同じような顔をしているだろう。サジェードを許さない。私達の認識は一致している。

 そんなことを考えていると、辺りに騎士達が集まって来ていた。これで本当に、一安心である。

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