6.弟思いの問題児
この喜びを例えられるものがない。はっ。そうか。いわゆる「青春来たーっ」て奴だ。家に到着したぼくは夕食を済まし、珍しくも夜の間に風呂も入った。ベッドの上で彼女たちの連絡が来るのを待つだけだ。
期待が胸にこみあげて、ニヤニヤが止まらない。
「グループ名『完全犯罪計画部』……もっといいネーミングセンスとかなかったのかな?」
スマートフォンに充電器をつけて彼女たちから情報の提供を待っている。
いつもは目立たないぼくでも、ここでは明るくなれるのだろうか。
それにしても、一体最初の言葉は何となるんだ!?
そう思っているとスマートフォンが振動を始めた。ついに来た!
「……ああ」
最初のメッセージは東堂さんからだった。いいや。彼女はメッセージではなく画像を送ってきたのだ。ぼくのスマホに映ったのは三枚の写真。このぼんやりとしてそうな男性がターゲットの都さんなのは確実だ。
「これが都さん。依頼主の彼女がストーカーされてるときに撮影した写真みたい」
東堂さんからそう断言するメッセージが来た。
三枚の写真には、ストーカーである彼の顔や体がしっかり撮れている。これなら、ミッションを簡単にクリアできるかもしれない。
そんな調子に乗って仕事を進めようとしているぼくに天罰が下るのは、すぐ後のことだった。
またスマートフォンが揺れた。どうやらグループとは全く関係ない人物から送られたメッセージ……。
『ヒメからメッセージです! 今から陽君の部屋に突入!』
その意味を理解する前に、背後から大きな影が突然飛び掛かってきた。
そうだ。今もまた思い出す。この人にぼくは死ぬ程、存在感を奪われているのだ
「おおい! 元気にしてるかーっ! おーっす!」
「暑苦しい! 近寄んなっ!」
たぶん、この人に構われ過ぎているから、だ。他の人がぼくを視認できなくなるのは、この人他の人の分までぼくの存在感を堪能しているから、なのだ。
静かな夜にぼくへと抱き着いて来たのは、正真正銘の姉である。
御影
長い茶髪と大学一の美貌(これは、前に彼女自身で言っていたことなので、信憑性などない)を持つ彼女が誘惑してくる。よほど、暇だったのだろう。
……いや。この部屋から出て欲しい! お金払ってでも出てもらいたい!
貯金箱に手を伸ばす。
「いやいや、お姉ちゃんが幾ら可愛いからって貢物なんていらないよー! スパチャなんてしなくてもー! 愛があればー!」
「離せっ! 愛なんて存在しない!」
ぼくとは正反対で異常に明るく、友達や彼氏も山のようにいるそうだ。時たまに同じ姉弟なのか不安になってくる。姉が拾われてきたんじゃないのかと親に質問したこともあった。その時は笑い飛ばされたのだが、怪しい疑念はまだ取り払えていない。
その話は置いといて、彼女は弟のぼくに対して半端じゃない希望を持っている。それはただの姉弟愛とか、そういうものではなく、もっと重いものである。
「大好きー! 大人になったらあ、陽君のおこぼれを貰おうかなあー?」
「何で最初から部下になることしか考えていないの!?」
理由は不明。極度の可愛がりと期待に暑苦しいのか、寒気がするのか分からない自分である。ぼくの身の毛がよだっていることは確かだ。
とにかく窓を開け、換気をする。そうすれば彼女も迂闊に大声は出せないし、暑さも夜風でどうにかなる。
……夜風も月明りも入ってこない。今日は曇り、無風の様だ。
そうして、彼女に背中を見せてしまう。そこに彼女が近づいてきた。よっぽどこの人の方がヤンデレだよ!?
「で……陽くーん、あ・そ・ぼ……ん?」
「ああっ!」
彼女はぼくのスマートフォンを踏んでしまった。気づいた彼女はそれを拾い上げる。充電器を引っこ抜いた後、止める間もなく画面を触り始めた。
「ああ、ごめん。壊れてないかチェックした後に、中身も」
「やめろー!」
飛んで彼女のスマートフォンを奪おうとしたが、失敗して机に頭突きをした。痛いなんてもんじゃない……。
痛みを我慢し、頭を抱えながらまた彼女に飛びついた。
「あらあら、威勢がいいのねえ。そんなに見られちゃ嫌なもの? わかった。ワタシが陽君の初めてになってあげるからさあ」
「何言ってるんだ? こいつ!?」
「お姉ちゃんをこいつって呼び方しちゃダメ……『お姉ちゃん』か『ヒメ』って呼んで!」
「誰が呼ぶかあああ!」
彼女はぼくが頭を押さえているときに、スマートフォンの怪しいと思うところを全て触ろうとしていた。
「あれ……インターネットは履歴消してる……動画も消してある」
一回一回サイトや動画を視聴した後に消去できるものは良い。一番の問題は連絡用アプリだ。登録した友達が必ず見つかってしまう。
確実に彼女はそこを開く。やめさせないと!
「させるかっ!」
「あら?」
彼女は背中を反って、ぼくの攻撃を避けた。頭をゴミ箱の中に突っ込んだ……後で頭、洗ってこよう。
「さあて、友達いるのかしら……」
「やめ――」
奪取を試みたが、さすがは姉。手の動きを見切って、全てはたいていた。そのせいでぼくの指と手の骨が複雑骨折するかと思った。
しまった!
「あら……増えてる。東堂 絵里利。名前からして可愛らしい子と友達になったわねえ。お姉ちゃんとして、喜ばしい限りだわあ」
「そ、そう……」
半分諦めモードになる。彼女の言葉に相槌を入れるくらいしか、やる気も体力も残っていなかった。
次の瞬間、彼女が何故か、目を見開いて、口に手を当てる。
「古月……って、もしかして古月ITの古月?」
驚いた理由はそれか。答えてあげるか……。
帰りに校門でした話を思い返してみる。
『確か。宮古って人を襲撃するんだから、彼のことを知らないといけないんだよね。これで調べられないことはないと思うけど、顔写真とかある? 同性同名がいるから困っちゃって』
最初からお金持ちであることは示唆していたが。
この言葉から考えれば、彼女はどんな人でも探すことができるくらいの科学力は持っていたはずだ。まだまだ科学は発展中。2020年代。この年代にそんな便利な代物が普及しているわけがない。とすると、IT社の令嬢が試用しているだけだろう……そういえば。
「たぶん。お姉ちゃん。古月さん達に伝えたいことがあるから、ちょっと貸してくれない?」
ぼくがそう頼むと、彼女はからかう様に声を上げてきた。
「おっ。おっ。いいねえ。デートの約束う? いいなあ」
「うるさい。姉ちゃんの方こそ彼氏は?」
「ただいま募集中ってか、要らないでしょ!」
「えっ!?」
スマートフォンの操作を誤ってしまい、姉の前で堂々と「完全犯罪計画部」のグループを開いた。
これはどう考えてもヤバイことをやってしまったに違いない。
冷や汗が止まらない。
「完全犯罪計画部……何それ?」
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