第9話 契約結婚の申し込み 2

「鬼っ⁉」


 桜はびっくりして大声を出したが、他の人たちは動揺している様子がない。


「はい。ビックリですが、僕って鬼なんですよぉ~」


 笑顔のかいが、額から二本の角を出したり戻したりしている。


「鬼と言ってもコントロールはキッチリ出来ていますから、とっても平和的な鬼なんです」


(女装の和服美人が鬼っ⁉)


 桜は目をぱちくりさせながら出たり戻ったりする二本の角を見ていた。


「とはいえ鬼にも色々なタイプがいましてね。僕は人間と共存して平和に生きたいと思っているのですが、同じ考えの鬼ばかりではありません。厄介なことに鬼も増えまして、昔のように鬼の隠れ里が1つというわけでもないのです」

「それは初耳じゃな」


 座布団の上であぐらをかいた祖父は、眉間にシワを刻んで顎に手をおいている。

 父も険しくて不安そうな表情だ。


「ええ。鬼の隠れ里が分かれたのはごく最近ですから。そこで今日は、鬼頭家の女性と僕との契約結婚のお話をしにきたのです」


 かいは穏やかに説明する。

 シーンとした室内にエアコンの音が響く。

 かいは祖父と父、そして最後に桜の顔をじっと見つめた。


(美人だなぁ。鬼って綺麗な人ばっかりなのかなぁ? あ、鬼だからニンゲンじゃないか。鬼……)


 桜は、穏やかで凛としているかいの姿をまじまじと眺めたが、鬼から想像するような乱暴なイメージはない。


「あ。僕、こう見えても鬼の里の次期族長という立場なのですよ。今日は執事と護衛代わりの運転手と参りました」


 後ろに控えていた2人が軽く頭を下げた。


「ワタクシ、執事の真鬼まきひさしと申します。契約の細かいことに関しましては、ワタクシが担当させていただきます。こちら、お気に召すとよいのですが……」


 真鬼まきはスッと立ち上がると祖父のへ座り、手土産として持参したカゴに入った桃を差し出した。


「おじゃましまぁ~す」


 そこに桜の母であるかおるがカットした桃の載った白い皿をお盆に乗せて入ってきた。

 薫は真鬼まきの差し出した手土産の桃を目ざとく見つけると、嬉しそうに言った。


「あ、それは私の作った桃」

「おや」


 真鬼まきは後ろに下がりながら小さく声を上げ、かいは目を大きく見開いて驚きをあらわした。


「流石は鬼の里の執事さん、それを選ぶなんてお目が高い!」


 薫はコロコロと笑いながら、テーブルに桃の載った皿を並べ始めた。


「何のお話をしているのは承知していますが、堅い堅い。もっとざっくばらんに行きましょうよ」

「お前は何を言って……」

「ハハハ。堅いって、お父さん。契約結婚のお話でしょ?」


 薫は笑いながら父の前に桃の載った白い皿を置いた。

 鬼瓦のような顔をしたゆうは机をたたきながら大きな声を上げた。


「今は鬼との契約婚をするような時代じゃないっ! 桜はやらんぞっ!」


 桜の横であおいもコクコクと頷いている。

 薫は妙に迫力のある笑顔を浮かべて言う。


「私は関係ないまま結婚できたけど。この家ってでしょ? 堅く考える必要なくない? そもそも契約結婚で本当の結婚ではないわけよね?」


 かいは無言でコクコクと頷き、その少し後ろで真鬼まきもコクコクと頷いた。

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