第6話 裏山鍛錬

 鬼頭家の敷地は無駄に広い。

 無駄に広すぎて、かおるは花を育てるだけでは飽き足らず、畑や果樹園も自分で切り開いて作っているくらいだ。

 田んぼは流石に昔から使っている場所以上は増やしてはいない。

 

 そんな無駄に広い敷地のなかには、しめ縄のかけられた大きな洞窟や、苔むした祠、風化に任せたまま形を変えていくお地蔵さんなどが置かれている石ころだらけの一角がある。

 

「さぁ、こいっ! 桜」

「あいっ、いくよ~。じーちゃん」


 その一角が、桜と祖父の鍛錬場だ。

 小さな頃はがくも一緒になって遊んでいたものだが、小学校の五年生になった頃からチャンバラごっこよりもサッカーがよくなったらしい。

 少し寂しい気もしたが、それも成長と桜は諦めた。

 だが桜の好みは小さな頃から変わらない。

 ここには桜と祖父しかいないが、桜にとって楽しさは昔と変わらなかった。


「わーい」

「わーい、わーい」


 桜と祖父はテキトーすぎる声を上げながら、木刀と木刀をぶつけ合う。

 足場は悪いし、木刀は当たったら痛いのだが、そこは小さな頃から慣れているせいか桜が怪我をするようなことはない。

 加齢と共に少々縮んだ祖父も同じで、一本歯の下駄を器用に使って飛び回っている今も、大怪我をするようなことはなかった。

 桜の足元はスニーカーだ。


「この木刀、買ってよかったー。超楽しい―」

「よかったな、桜。でも喜んでばかりいてはいかんぞ。ほらココ、がら空きっ」


 祖父が右わき腹に突っ込んでくるのを、ひゅっと反対側へと華麗に受け流して避けた桜は、高笑いする。


「はははっ! 年には勝てぬな、 ゆうよ! 我を倒すには至らんっ!」

「何を小癪なこわっぱめ。目にもの見せてくれるわっ」


 カンカンカンカンと軽快な音を出しながら木刀を右に左にとぶつけ合う2人。

 息が合い過ぎて、コントの前振りのようになっている。


「ほらほらほら。桜。そろそろ息が上がってきたじゃろ」

「まだまだぁ~。わたしはまだピチピチの18歳だぞ、ジジィ」

「年寄を馬鹿にするような言い方はいかん。女の十代と男の六十代は同等じゃぞ」

「んなわけあるかっ!」


 祖父の暴言にカチンときた桜は岩壁を素早く駆けあがると、祖父の頭上に自分ごと木刀を振り下ろした。


 カンッと大きな音が響く。

 祖父が素早く桜の早くて重い木刀を、自分の木刀で受けたのだ。

 力で跳ね除けられた桜は、反動を利用して素早く後ろへと飛ぶ。

 足元にゴロゴロ転がる岩の上へ木刀を構えながら器用に着地した桜は、何かに気付いたように木刀から離した右手を大きく広げて前に突き出して祖父を制止した。


「しっ、何か聞こえる」

「何じゃ? 儂には何も聞こえんが……耳が遠くなったのかの?」


 桜と祖父は、左手に木刀をダランと持ったまま耳を澄ます。

 すると遠くで車のエンジン音がした。


「ん、誰か来たようじゃな」

「じゃ、いったん休憩ということで」

「そうじゃな。ん……誰がきたんじゃろうな」

「だね。何にも予定はなかったよね」


 木刀を下げた2人は、首を傾げながら母屋を目指した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る