猫と王子様

野宮麻永

第1話 火事です

満員電車から解放されてホームへ降りると、新しい空気を思いっきり吸い込んだ。


毎日朝夕の通勤ラッシュを除けば、仕事は好きだし、一人暮らしも気に入っている。

今住んでるマンションは会社から遠いものの、駅からは徒歩10分圏内。複数のコンビニに囲まれるように位置しているから、今日のように残業してご飯を作る時間がない日も食べ物にありつけない、なんてことがない。



駅前のコンビニでシーフードパスタを買い、店を出たところで、すぐ目の前の道路を消防車がサイレンを鳴らしながら通り過ぎるのを見た。

ウーという音の間にカンカンカンという警鐘が入っているから、どこかで火事が起きているということ。



マンションへ向かう道は、駅から離れるにつれて、いつもなら歩く人がまばらになっていくのに、今日はやけに人が多い。

普段は滅多に人が通らない場所にまで人がいる。


年配の女性が隣にいる女性に、「近くで火事だなんて怖いわねぇ」と言うのが聞こえた。



火事って、この近くだったの……?


まさか……


まさか……だよね……?



どんどん増えていく人垣の間をくぐり抜け、更にマンションへ近づくと――


その「まさか」が現実となった。



消防車が3階の、自分の部屋辺りに放水しているのが見えた。

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