神話(タロスとキュリシダエ)

まっちゃん

第1話 神話(タロスとキュリシダエ)

 世界のどこかに蚊をまつったほこらがあるという。

                ・

 今は昔、人が神々と共に暮らしていた時代。人はまた、蚊と友情を交わしていた。


「タロスぅ~」

「やぁ、キュリシダエ。かい?」

「いつもごめんねぇ。」

「そんなことないさ。君たちのおかげで稲や麦が実るんだ。ちょっと待ってくれ。」


タロスはそでまくって肩を出した。

「さぁ、どうぞ。」

「おいしい。ありがとう。えへへ。」

「キュリシダエはかわいいなぁ。」

「えっ。あ、もうっ。そんなぁ。ば、ばかぁっ。」

「あはは。」


その村は海が近く、土地もふくよかで、人口を支えるには十分であった。だが、そんな幸せは突然破られた。

「ティアマトだ!」「ティアマトが現れた!」

ティアマトと呼ばれるその怪物は、海にみ、巨大な鯨のような姿をしていた。

「近づいて来やがる。このままでは村が壊される。あいつと…戦えるのか?」

ある者はもりを、ある者は弓矢を持ち、ティアマトを狙って投げ込んでいく。

 「私たちも戦うよ!」

キュリシダエは叫ぶと仲間たちと共に宙へと舞った。 だがティアマトの鱗は固く、銛もやりも役に立たない中で蚊たちの針が通じることは無かった。


「まずい…まずいぞ…」

「神の力をお借りするしかないのか…」


 力とは、願いを聞き届けるために代償を要求するものだ。人魚が人間の足を得るために声を代償にしたのも似た話。


『蚊よ。お前たちの言葉を奪う』


要求がなされたのは蚊たちの方だった。

「そんな…もうタロス達とおしゃべりできなくなるの?」

『ティアマトがこのまま村に来ることになるだけだ』

「……」

キュリシダエは決心した。

「いいよ。あげる。そのかわりこの村の平和を永遠のものに。だって…みんなが…タロスのことが…好き…だから……好きなんだからぁっ!」

「キュリシダエぇぇぇ!」

「タロスぅぅぅぅ!」

一人と一匹は最後の抱擁ほうようを交わした。


『……よかろう……』

                ・

 その村には今でも蚊をまつったほこらが残されているという。


---

(2025.08.08 了)

三題噺「土地」「蚊」「怪物」

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神話(タロスとキュリシダエ) まっちゃん @macchan271828

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