第11話 石ノ森の解➁

稲村健一いなむらけんいち・・・・・・・・・・・・F学園学長

木藤美津代きとうみつよ・・・・・・・・・・・・F学園副学長

加納優かのうすぐる・・・・・・・・・・・・2年A組担任・国語

千葉ちばまゆみ・・・・・・・・・・・・2年B組担任・家庭科

志井宏子しいひろこ・・・・・・・・・・・・2年C組担任・数学

榎本良枝えのもとよしえ・・・・・・・・・・・・3年A組担任・理科

駒田誠一郎こまだせいいちろう・・・・・・・・・・・・2年次学年主任

山本陶冶やまもととうや・・・・・・・・・・・・3年B組担任・体育

石ノいしのもり凪沙なぎさ・・・・・・・・・・・・K大学文学部・日本史学科・教育実習生

慧村真司さとむらしんじ・・・・・・・・・・・・〃・カフェバイト


2年A組の特徴的な生徒

坂井さかい・・・・・・・・・・・・僕の友人

小澤おざわ・・・・・・・・・・・・女子生徒、活発で美人

御厨みくりや・・・・・・・・・・・女子生徒、読書好き

風戸かざと・・・・・・・・・・・・女子生徒、生徒会

中川なかがわ・・・・・・・・・・・・失踪、いじめのリーダー格

佐藤さとう・・・・・・・・・・・・失踪、おどけるのが好き

馬場ばば・・・・・・・・・・・・失踪、中川の舎弟的存在

秋葉あきば・・・・・・・・・・・・失踪、成績トップ10

須田すだ・・・・・・・・・・・・失踪、野球部四番エース

宮野みやの・・・・・・・・・・・・佐藤と仲がいい

小峰こみね・・・・・・・・・・・・中川と幼馴染

篠崎しのざき・・・・・・・・・・・・1人目のいじめのターゲット、不登校

大城おおしろ・・・・・・・・・・・・2人目のいじめのターゲット

僕・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・物語の主人公


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 坂井たちが居るファミレスに戻ると、佐藤と話した内容をそのまま伝えた。

「そうですか。そしたら、そもそもいじめの事実さえ、本当か怪しくなってきましたね」

「狙われていたのは逆って事か?」坂井が私に言った。

「そうなるね。それも、計画的な犯行って事よ」石ノ森は自信満々に言ってみせた。

「過去の事件に何かありませんかね?そう言った事件は」

「調べてみようか」石ノ森が会計を済ませると、その場を三人で後にした。


 K大の図書館は、石ノ森しか入れなかった。僕と坂井は正門で待つことにして、一時解散した。

 石ノ森は二十五分で戻ってきた。

「それで、何かありましたか」

「うーん、とりあえず必要そうな資料は請求してきたけど、何かあるかどうか」

「資料って?」坂井が質問した。

「新聞よ。これならニュースも載ってるでしょ?」

「確かに」

「えっへん」と、石ノ森。

「えっへんって、何ですか」坂井が訊いた。

「いや、別に」

「変なの」

「年上よ。失礼ね」

坂井の乾いた笑いが、K大に響いたような気がした。


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 僕と石ノ森、坂井の三人は、K大の駅前にあるカフェで新聞を開いた。しかし、当時のF学園のニュースを見ても、何も有益な情報は載っていない。一応のこと過去1ヶ月の新聞も見てみたが、僕の住む県で起きた事件の中で、これといって必要そうな情報は無かった。

「あれ、渚沙じゃん」突然、後ろから声が聞こえた。

石ノ森は声をかけた男性を一瞥すると、「ああ、慧村さとむらか」と言ってにっこりと笑った。

「何してんだ?」

「珈琲飲んでる」

 慧村は見りゃ分かる、とさっぱり言った。坂井らを一瞥すると、「誰?隠し子?」と訊いた。

「馬鹿。教育実習で行ってる学校の生徒」

「あれ、遠く行ってるんじゃなかったか?」

「遠足だよ。え・ん・そ・く」

「遠足?そうは見えねぇけどな」

「ここで働いてるの?」

「 そう。もう二年になるよ。こういう顔だから、カフェスタッフが似合うよなぁ……」


 石ノ森はへぇと適当に返した。慧村というのは、石ノ森が大学二年生のときに出会った男で、文化社会学で一緒だった。石ノ森は誰とも話す気が無く、だんまりを決め込んでいたのだが、

慧村がしつこく話しかけてきたので、それに対応していたところ、仲良し、という事になっていた。

「大学はどう?」石ノ森が質問した。

「そうだねえ、あんまり行ってないかな……。だって、授業なんか一つしかないんだぜ。それなのにわざわざ行くなんて、馬鹿らしいね」

「それで卒業できなかったらどうするの?」

「出来るよ。そんな木偶のでくのぼうじゃない。石ノ森さんこそ、教採受からないとまずいでしょう?」

「そうね、でも、あなたに心配されるほど落ちぶれちゃいないわ」

「相変わらず辛辣だなあ。事件のこと、テレビで見たけど、何があったの?F学園でしょう?石ノ森さん」

「そう。慧村くん、知ってるの?詳しくは知らないわ。私はただの学生なの。分かる?」

「どうにもただの学生の態度には見えませんけどね……」

「それはどうも。仕事、何時までなの?」

「もう、終わるよ。そうだ、どこか飲みにでも行かない?」と、慧村。

「嬉しいけど、高校生の引率だし、今はそんな気分じゃないのよ」

「やっぱり、殺人事件で?関わっているという事?」

「関わっている、というほどのことでもないわ。ただ、話を聞いて、うんうんと相槌を打っているだけよ。慧村くんこそ、ミステリ読むんだから、事件とか得意なんじゃないの?」

「うーん、別に得意でも好きでもないよ。ただ僕は、探偵が好きなんだ。ハードボイルドで、洗練された慧眼を持つ、優秀なディテクティブがね……。石ノ森さんは、昔から頭が良かったでしょう?だから、探偵には向いていると思うけどなあ……。どう?」

「向いているって、別になりたいわけじゃないし……、楽しくもなんともないわ」

僕は慧村に目を向けた。「事件について、どう思いますか」と質問してみた。

「どう思うって?なんか、記者みたいだね、君は。名前は?F学園の生徒さんなの?」

僕は首を縦に振り、名前を名乗った。「それで、どう思います?」

「うーん、どうにもディテールが見えないから何とも言えないけど、その、改修工事中の体育館で刺されて死んでたわけだ。鍵はかかっていたの?」

「かかっていました。内側からもかけられるサムターンです」

「じゃあ、窓や格子類は?」

「それもダメです。ロックされていて、開けられませんでした」

慧村はうーんと唸った。「そうかぁ」

「考えられるのは、鍵の複製を作った可能性ね。でも、近隣の鍵屋ではそんな依頼は無かったって……。どういう事かしら」石ノ森が話した。

「そんなことしなくても、中からかければいいじゃないか」慧村は簡単そうに言う。

「痕跡が無かったの。つまり、殺害されてから歩いた痕跡とか、自分でナイフを突き立てた痕跡とかの類が」

「格子の外に紐を垂らして、サムターンの部分に括りつけて閉めたとか?」と、慧村。

「上手く行くかしら。どうやって閉めてから紐を取るの?何か、痕跡が残りそうじゃない?」石ノ森は納得できない表情で答えた。

「行き詰ったな」と、慧村。

「慧村さんは何を勉強してるんですか?」坂井が話題を変えた。

「俺は文学、石ノ森さんと同じだよ。人類と言語とか、そういうのを勉強してるんだ」

「かっこいいですね」坂井が答える。

「顔が?」

石ノ森はムッとした。「もう、行きなさい」

「はいはい」


 慧村はその場を去っていった。カウンターに戻ったのだろう。事実、「いらっしゃいませ」という掛け声が何度か聞こえていた。僕は慧村の左手に輝く指輪の模様を、頭の中で考えていた。


 「これはさ、どういう事なんだろう」

 僕はある記事を指さして言った。それは、H市で起きた暴行事件だった。それも、F学園の生徒が通行人に暴行をしたというニュースである。

「もしかしたら、中川たちを恨んでいる人物が、復讐の為に事件を起こしたとか?」

坂井が言った。

「そうなると、今まで何らかの事件に中川含む五名が関わっているという事だね。でも、そんな事件はあったかな」僕は答えた。

「でもそれだと、小峰くんを殺害した動機にどう繋がる?」と、石ノ森。

「そうかあ」坂井がどうでもないという声で言った。

 僕は唸り、そっぽを向いた。

「小峰くんの事件がどのように行われたのか、それを先に考えよう」石ノ森が言う。

「一応、F学園の事件のニュースも見てみましょうか?」僕は石ノ森に質問した。

「そうね」と言って一週間前のニュース記事を見比べた。しかし、どれも『F学園で生徒が死亡』という、簡単なニュースばかり書いてあるだけだった。


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 石ノ森と別れると、坂井と電車に揺られた。夕暮れ時であり、電車は混んでいた。小田原駅には、観光で訪れた外国人が沢山いた。小田原で東海道線に乗り換えると、一時間ばかりまた、無言で電車に乗っていた。僕の携帯に加納から電話がかかってきていたことに気づいたのは、降りてから間もない頃だった。


 「もしもし」可能に電話をかけなおすと、すぐに出た。

「あ、今いいか?」

「はい」

「実はな……、また事件なんだ」


 F学園に到着すると、図書室の書庫に向かった。N棟の二階にある図書室には、警察官が何人か集まっていて、その近くに教師の姿もあった。

「何があったんですか」僕はロッカーにうずくまっている志井に声をかけた。志井の隣には、副学長の木藤きとうも居た。

「殺人よ」志井は言う。

「殺人?」

「そう。ああ、こちら」と言って木藤の顔を見た。「小峰くんの事件の時の第一発見者の二人です」

「そう。だから加納先生が呼んだのね」

「ええ。事件のこと、お話してもよろしいですか」

「いいけど、あんまり口外はしないこと、いい」木藤は僕を一瞥してそう言った。

「分かりました」

「被害者は篠崎眞人まひとさん。図書館書庫で亡くなっていたわ」志井は淡々と言う。「彼は図書委員で、納品された図書を整理していた所を、後ろから刺されていたの。背中の辺りかしら。死因は失血性ショック、二時間前に発見されて搬送されたけど、亡くなったのは朝じゃないかって……。最初に発見したのは、学年主任の駒田先生よ」

「防犯カメラは?」僕は質問した。

「図書館に入った生徒なら映っていたけど、書庫の前にはないから、誰なのかは分からない」

「それは誰でしたか?」

「言っていいのかしら」

「口外はしませんよ」坂井が自信満々に言う。

「そうね、六人居たそうよ。いや、図書委員を合わせると九人ね」

「僕は図書館に入った人物の名前を一人ひとり聞いていった。しかし、どれも知らない名前だった。名前をメモ帳に書き上げると、「それで?」と質問した。

「そのくらいよ」

「扉に鍵は?」

「かかっていなかった。誰でも入れる」

「足跡はありませんでしたか」

「なかったよ」志井は考える顔をした。「でも、胸元にカードが……」

僕ははっとした。「なんて書いてありましたか?」


『さようなら』


「さようなら?」

「そう書いてあったらしい」

「そうですか」僕は自分がぼーっとしている事に気が付いた。「もう、大丈夫です」

 そう言って二人で、暗くなった校舎を歩いて体育館へ向かった。


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 「分かったよ」僕は坂井に言った。「なんとなくだけど、事件のことが」

 「本当か?」

「うん。この事件のおかげで、なんとなく掴めた」

「教えてくれ」

「いいけど、石ノ森さんの話してからにしたい。連絡できるか?まだ、起きてるはずだ」

「分かった」

坂井は携帯電話を取り出して、石ノ森に電話をかけた。話の内容は端的だった。洗礼されていて、無駄が無い説明である。

「やっぱり、複数犯なのね」石ノ森の第一声はこれだった。

「ええ、篠崎は事件のことを知っていたんです」

「じゃあ体育倉庫で起きた事件の時も……」

「犯人と話していたでしょうね」

「少し、考えたい」石ノ森は弱々しい声で言う。

坂井は静かに、電話を切った。



 僕と坂井の前にスーツ姿の長田が現れると、「おや、事件のこと、聞いたかい?」と質問した。

「ええ、聞きました。まさか二人目とは」僕は答えた。

「困ったもんだよ。もう無ければいいが」長田は嘆願の目を向けた。暑そうなジャケットを羽織っており、汗をだらだらとかいている。

「無いですよ」

「え?どういうことだ。どうして君に分かる?」

「犯人の復習したい相手は、小峰と篠崎の二人だったからです。中川たちについては、まだ犯人が狙っているのかは分かりません。でも、事件としてはおそらく」僕は肩を少し竦めた。

「これで、終わりです。それよりも、長田さんにお願いというか、頼みたいことがあるんですけど……、いいですか」

「内容によるな。なんだい」

「警察なら出来ることです」

「ほう」長田が返事をすると、僕は話し始めた。

「まず、森林公園で暴行を受けた菅田史織ちゃん、分かりますか」

「この学校からつまみ出された五人の生徒が暴行したっていう、あれか」

「ええ、そうです。おそらく、彼女が事件の核心に居ると考えます。したがって、彼女の戸籍謄本を調べてください。もし何も分からなければ、とのDNA鑑定が必要です。それはまた言いましょう。現段階では容疑がある、それだけですから……。

 それと、体育倉庫の現場で、犯行が本当に可能なのか検証したいんです。いいですか」

「最初の質問はまだ何とも言えない。二つ目は現段階では不可能、三つ目は好きにやってくれ」

「ありがとうございます」

「どうして検証する必要がある?」

「そうすれば、だからです。確証はありませんが、可能性はあります」

長田は面白そうな顔をした。「俺も見ていいか?」

「明日はここに来ますか?」

「来たくないが居るよ」

「じゃあ、また声をかけましょう。その時に……」

僕と坂井は並んでF学園を出た。パトカーのランプと、野次馬の声とが、事件が起こってしまったことを、より強調しているように感じた。惨劇の渦中にあることを実感して、僕は少し身震いしていた。


 坂井と別れると、最寄り駅のコンビニでアイスを買って歩きながら食べた。僕の家は、駅から二〇分ほど離れている。川が近く、海抜の高い高台に歩いていく帰路だった。少し遠回りして帰ろうと、川沿いに向かった。犬の散歩をしている人や、ランニングをしている人で混雑している。水面はゆらゆらと海月のように月に反射して煌めいていた。水面を見ていると、少し心が落ち着いた。


 僕は河原の草原に立ち、虫が居ないことを念入りにチェックした後、その場所に腰掛けた。

 中川たちの事件、小峰の事件、そして篠崎の事件、その三つをピースで繋げるにはまだ、材料が足りないように思った。しかし、中川たちは、菅田史織暴行事件の張本人ではないだろう。そうなると、彼らに濡れ衣を被せた人物が居る、という事になる。その人物は、まず小峰、篠崎の殺人を行った人物と同一か、共犯者であろう。僕がもっとも不審に思った点は、やはり鍵の施錠である。しかし、ある方法を用いれば、全く簡単なトリックだったことがわかる。その証拠に、僕と坂井が体育倉庫で小峰を発見した時、そして職員室のキーを使って解錠した時、違和感を感じた。僕は思う。

 でもどうしてか、言葉にするのが難しかった。簡単なことばかり言葉に出来ないのが、人間なのかもしれない。


続く→→→


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