第10話 スローライフ イン イタリーでセリエA再定義のすゝめ

 スローライフ、まるで魔法の言葉であるかの様に老若男女を問わず憧れを抱かせるライフスタイルであり、ライトノベルの代名詞の1つとしてカクヨムでもなろうでも大人気のジャンル。

 どちらの意味でも瞬く間に浸透していった。


 スローライフという言葉は、イタリア発祥の運動スローフードが語源で、その意味はゆったりと食事をとることではなく、ファストフードの対義語だ。

そもそもスローフードという運動自体が某ファストフードチェーンの出店に対抗して始まった。

 活動の目的は、地域に根ざした作るのに手間がかかる伝統食や食文化の保護と地産地消の推進。保守的な活動で、高度に統制された情報化社会・グローバル企業・文化の画一化などに対するカウンターの意味合いがある。


 カウンター、サッカーファンの知るイタリア人らしい行動だ。


 その当時のワインの業界にも反抗心ある尖った人が多かった。その人達は法令や基準を守っていたら造りたいものも造れないと考え自由にワイン造りを行い、最下層カテゴリーで最高級ワインを売るというフリーキーな行動をとっていた。こんな事が行われていたのは、イタリアだけだった。 


 スローライフの平和的なイメージとは真逆の印象を持つマフィアも権力に対するカウンターとして生まれたとの説が一般的だ。


 反抗しないといられないのか。


 フランチェスコ・トッティはイタリア人の気質を社会主義とカトリックの融合と語ったことがある。そんな事を言われてもどんな気質なのか良くわからない。独特な事だけは理解出来る。



 カルチョ(イタリアサッカー)のかつての代名詞であるカテナチオは、もっと理解しやすい。

 大事な物(ゴール)を守り抜く為、鍵を掛けたかのような守備網をひく。とはいえそれだけでは勝てないので、自陣を護る人数を残した上で少人数による奇襲を行い、相手がミスを犯したら、ここぞとばかりに攻め入る。

 

 この作戦を遂行するには、訓練された兵士の様な選手でなければならない。その為に必要なのが戦術だ。


 かつて日本人選手が海外で通用しないのは、フィジカルが足りないからだと良く言われた。当時の見解では個人能力と言えばフィジカルや技術やセンスだったので、幾ら技術やセンスがあってもフィジカルが足りなければと。それだけではないと思う。

 

 イタリアは戦術の国と呼ばれていた。日本人選手が初めてセリエAに進出した当時では、アリゴ・サッキにファビオ・カペッロにマルチェロ・リッピにズデネク・ゼーマンといった監督達のチーム一丸となって戦う戦術が有名だった為、戦術イコールチーム戦術とだけ認識させられていた。

 

 だが個人戦術こそが未だにイタリアをイタリアたらしめているのだと思う。

 個人戦術とは、様々な状況において最適な行動をとるためのマニュアルの様なものだ。個人と言いながら集団でのデータ蓄積もできる。だから、それを収集・発展・継承することで優れた選手を量産することが出来るのだ。


イタリア人MFの能力の平均値の高さをずっと疑問に思っていた。

 SSCナポリの監督アントニオ・コンテの現役当時、彼にはライバルが多かった。同じ役割が担える選手が沢山いたからだ。今でもニコロ・バレッラやサンドロ・トナーリ他、ピッチ上で実に役に立つ選手が多い。

 フィジカルと技術に加え個人戦術が叩き込まれているのではないか、と思い至った。


 イタリアで育成された選手はある意味で調教されている。能力を認められないとカテゴリーを昇って行けないのだから。

 彼等と比べ時、当時まだレベルが低かった日本から来た選手は、イタリア人には何も知らない無垢な選手に見えたのかも知れない。


 でも今はどうだろう?(イタリア語さえ習得出来れば)海外志望の日本人選手にとってセリエAはプレーしやすいのではなかろうか。

 もちろん日本人選手だけでなく、プレミアリーグやリーガ・エスパニョーラで出場機会に恵まれない選手達にとっても。


 現在最先端の戦術をしいているプレミアリーグのトップチームは、前からのプレスでボールも選手も捕まえに行く。そういったプレーを可能にするには

選手に多くの資質を要求する。


 セリエAのチームはカテナチオの影響からか、後ろに下がって守り抜こうとするチームが多い。

 なのでプレミアのトップチームで要求される、高い集中力・素早く正確な判断力に少し欠けていてもセリエAでなら普通にプレー出来る。守備の対応が遅れがちだったりサボったりする選手でも、セリエAではあまり目立たないで済む。


 ラファエル・レオンがACミランのエースでいられるのだから。あの守備はプレミアのトップチームだと、絶対に監督に怒られるし干される。


 先にマイナスを挙げてしまったが、レベルは十分に高い。フランスリーグやエールディビジやスコティッシュプレミアリーグよりも、上位と下位の実力差が少ないのも良い。とても良い環境ではなかろうかと。


 今季ナポリにケヴィン・デ・ブライネが加入した。チームには既にマンチェスター・ユナイテッドから来た昨期のMVPスコット・マクトミネイもいる。

 この決断素晴らしいと思う。最高峰の監督がいて、CLにも出場出来る。ミランにはレアル・マドリードからルカ・モドリッチが加入して話題性もある。プレミア程インテンシティが高くないので、ベテランでもプレーしやすい。

 マンチェスター・シティを出てセカンドサッカーライフをおくるのかと思いきや、競争力の高いナポリを選ぶところがデ・ブライネらしい。


 このレベルを落とし過ぎないセカンドサッカーライフ、ベテラン選手に最適なんじゃないか。ベテランを軽視しないイタリアではオリヴィエ・ジルーという先達にも確かな存在感があった。

 

 サウジほど給与は貰えないが、セリエAでもうひと花といった選手が増えて欲しい。そしてこれからという日本人選手達にも。

 

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