それでも僕は帰りたい~スキル【異世界転移】を持って異世界に転生!?~

@udonKome

第一章・始まりの一歩目、最初の世界ワァヘド

第1話・あの女神ぜってぇ許さねぇ



 突然だけど皆は一度でも、別の世界に行ってみたい――と、思ったことがある?

 そりゃあ、僕も異世界にロマンを感じたことは一度や二度じゃない。


 魔法とか、冒険、とにかく非日常に心が躍るのは間違いない。



 でも、僕は――いや、僕たちは心の底からそれを後悔することになる。


 もし、昔の僕のように何となく異世界に行ってみたいなとか思っているのなら、断言しよう『絶対、日本の方が良い」と――



 ***




 空が青い、そりゃそうだ朝なのだから青いのは普通なのだ。

 だけど、寝たまま首だけ動かすと街中では見ないような木々の数々――


「森じゃねぇか!!」


 現実逃避に大の字で転がっていた上体を軽く起こし、今一度夢ではないかと目を必死にこすったり、頬をつねったりして見るもどうやら夢や幻覚の類ではないようでしっかり森が広がっていた。


 地面に強く根差した根っこ、ホウセンカとは比べ物にならないくらい巨大な葉っぱ、明らかに食べたらあの世行きになりそうな毒々しい色をした茸、動物園くらいでしか聞いたことのない動物の鳴き声などなど




 さて、そろそろ現実逃避を辞めにして僕の姿を見てみると高校の制服のブレザーに白シャツ、ズボンと言う高校生の装いだった。

 では、なぜ普通の高校生である僕がこんなところに寝っ転がっていたのだろうか。



 ただの誘拐ならいいが、いやよくないけど森に捨て置かれるということは相当であるはずだ。

 僕は、その場で少し立ち止まり目を覚ます前のことを思い出す。






 僕の名前は、影山阿歩炉。影山の中から上がる光の神と言うことで、「かげやまあぽろ」という。


 出身は神奈川県で16歳の高校生。

 確か、意識を失う前も学校に登校しようとして、何かがあったような――



「あ、あのクソ女神……!」


 思い出した。完全に思い出した、思い出すと同時に言いようのない憎悪、怒りそれらが全身から吹き出しそうになった。



 ***



 その日は、本当に本当に何でもない日だった。もうすぐ文化祭で楽しみだな~なんて思っていながら、今日も19時くらいまで居残りかな、なんて考えていた時だった。



(誰だろう、僕をずっと見ているけど……見覚えがあるような?)


 学校がすぐ目の前にある交差点で信号が変わるのを待っていた僕はその向かい側にいる、男がじっと僕の方を見ていたことに気づいた。

 フードを深くかぶっていたから顔をすべて見たわけではないが妙に親近感を抱いたのを覚えている。


(うーん、誰だったかな……学校の人ではないけど、どこかですれ違ってたのかな)


 考えても答えは出ることはなく、やがて信号は青に変わった。いじっていたスマホをポケットにしまい歩き出した。

 そして、交差点であの男とすれ違ったその時


「ごめん」


 意識はここで暗転した。



 ***



 次に気づいて目を覚ました時には周囲には学校なんてなくて辺り一面が真っ白の世界に僕は立っていた。



「気が付いたようね?」


 突然の出来事に困惑しながらも、声のかけられた方向を向くとまるで天使のような輪っかと翼を備えた、形容するならば神が利き手で書いたというほどの絶世の美女が目の前に浮かんでいた。



「あ、え、その……どなた様ですか?」

「ま、突然こんなところに呼ばれたらそういう反応にもなるわよね……人間」


 僕を人間と呼んだ彼女は何か含みを持った笑みを浮かべじっと顔を覗き込む。



「あたしの名前はタナトス。この世界で凡人の魂を運んでいる女神よ」

「凡っ、て待ってください!魂って僕死んだんですか!!」

「ええ、死んだわ。がっつり輪切りになって死んだわ……いや~あの殺され方は長年神をやっているけれど見たことがないわね!!」


 まるで何でもないように僕の死を語る女神は僕の死を嘲笑うように何か含みを持たせた言い方でそう告げた。


「輪切り!?どうやったら輪切りで死ぬんですか!?……って、僕死んだ!?」


 突然のことに頭が情報を拒んでいる、とにかく自分が死んだなんてそんなわけない。

 今日だって、学校に行って授業を受けて部活が終わったらその帰りに少しだけ文化祭の準備を手伝ってお化け屋敷をするって――


「僕、本当に死んだんですか?」

「ええ、死んだわ。確実に死んだ」


 受け入れられなくても女神に死んだと言われれば確かに死んだように思える。

 実際、夢や幻覚の類でなければこんなところに来るのは死んだときくらいだろう。


 だけど、あまりにもあっさりと死んだので納得できない自分もいる。


「落ち込んでるわね~ま、もう死んだんだから気にしなくていいわよ。今、貴方がどう思うが何の意味もないもの」

「……こ、このやろ……」


 誰のせいだと、とふつふつと怒りが煮えたぎってくるのを感じるが殺したのは別にこの女神ではないと必死に理性を働かせる。

 すると、女神がこちらを一瞬見てにやりと微笑むとプラカードを持ってこちらに接近してきた。


「でも、そんなあなたに今なら転生チャーンス!!」

「転生チャンス?」


 プラカードには「転生チャンス」と書かれており、先ほどまでとの会話の寒暖差に思わず聞き返す。すると、女神はドッキリが成功したときのようにいたずらっ子のような笑みを浮かべる。


「ええ、文字通りよ。ラッキーね、あなたはあたしの目に留まった。だから、地球とは違う別の世界……それも剣と魔法がある世界に転生してもらうわ」

「いえ、結構です」


 躊躇せず断った。


「そうよね、やっぱりチートスキルは必須よね……ってうそでしょ!?転移しないの!?せっかく死んで別の世界に五体満足で復活できるのよ!!」


 正直、剣と魔法の世界はラノベや漫画で読んだことがあったから知っていた。


 けど、僕は痛いのは嫌だし生き物を殺すなんてできればしたくない、それに日本の方が圧倒的に治安は上の可能性が高いんだから異世界なんて行きたくない。


「いいえ、僕は別の世界なんか行きたくないです。ていうか、そんな死者の蘇生みたいなことができるなら今からでも地球に僕を転移させてくださいよ」

「ダメ、なぜなら貴方は既に向こうで輪切りになって死んでいるし、死んだ人間が蘇ってどうするの?輪切りの自分と対面したい?したくないでしょ」


 ワンチャン日本に転移させることができるのではないかと思ったがそううまくは行かないらしい。

 言われてみれば、輪切りになった自分の姿なんて見たくないし、死んだの人間が蘇るのも色々都合が悪いだろう。


「そうですね……諦めます」


 仕方ないと肩を落としながら、落ち込むと待ってましたと言わんばかりに彼女の表情が明るくなる。


「そうよねそうよね!!それじゃあ、早速異世界に転移しましょう!チートスキルは何が欲しいかしら?やっぱり、魔法がいっぱい使えるようになりたいわよね!」

「いえ、転移も大丈夫です。潔く成仏されることにします」


 それでも、今度は苦気味に断った。


「え?やっぱり剣の才能が欲しい?それじゃあ、剣聖を目指すのも……って!?はあ!?なんで成仏なんて選ぶのよ!あんた16歳で死んだのよ、少しくらい未練はないの!?」


 何か、違和感を感じるくらい転生を進めてくるが、決めたものは決めたので帰るつもりはない。


「確かに少し思うことはありますけど、大好きな両親のもとに生まれて友達も結構いて幸せでした。きっとここで転移しても恋しくてきっと何もできないと思いますから」


 僕は本当に優しい両親から愛をもらって生まれて、育ってきた。

 未練がないと言えば嘘になるが、それでもこうやって死んだと知るときっぱり諦めもつくというものだ。



「チャンスをくれてありがとうございます。だけれど、僕はもう十分生きました。どうか、もう成仏させてください」



 そう言い切った。そして、成仏されるだろうなと目をつむりその時を待った――しかし、少したってもその時は訪れない。

 どうしたんだろうと、目を開くとそこには表情が完全に抜けた女神タナトスがまるで珍獣でも見る目で僕を見ていた。


 恐怖が僕を支配する、その瞳に魅入られたら最後呼吸は荒くなるどころか止まり、目は離せず、まるで心臓を鷲掴みにでもされているんじゃないかと錯覚するような感覚に襲われた。


「ッ……!!」

「ふーん、まあいいわ」


 その一言のあと、巨大な威圧感は解除された。


「はあはあ……ッ」

「そんなに日本に帰りたいのね……ふーん、それならぴったりのスキルを上げる」




 スキル【異世界転移】を習得しました。




 ピッと画面をスクロールするように女神はこちらに指を飛ばすと、何やら機械音声が頭の中で響いた。


「待って、僕は異世界には!!」

「うるさいうるさい!!最初からあなたが異世界に行くのは決定事項なのよ!」




 その直後、今まで僕が立っていた地面が急に頼りないものに変わり全身を浮遊感が覆っていく――空を見上げる、相変わらずの青い空と僕を落とした鬼畜女神のニヤけた面がそこにはあった。


「そんなに帰りたいなら自力で帰りなさいよ……せいぜい、頑張りなさい!!」

「くっ、そぉぉぉ!それでも、僕は帰りたい!!」


 地上から手を伸ばしても雲を掴めないように手から雲はすり抜けていきそのまま地上に落ちていった。

 僕の意識があるのはここまでである。




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