ワタモウフリガ

■ 1. 学名・和名・分類


学名:Ignispupa lanigera @ Aurelius Prime

和名:ワタモウフリガ

分類:アウレリウス・プライム圏 動物界 節足動物門 昆虫綱 鱗翅目(Lepidoptera)


■ 2. 生息地


アウレリウス・プライムの温帯乾燥帯に広く分布。特に大陸西部の「セラフォーン台地」や入植地周辺の農耕地跡に多く、乾いた低木林や半砂漠地帯に点在するワタ科外来植物を好む。昼行性で、成虫は午前中に活動が活発化する一方、幼虫や蛹は日陰や低木の根元に密集する傾向がある。


■ 3. 成体の体長


成体の翅開長は12〜15cm。全身は淡褐色から銀灰色の鱗粉で覆われ、後翅に炎のような橙色の斑紋を持つ。蛹期には全身が純白の繊維状ワタに覆われ、この繊維は非常に軽量かつ空気を多く含み、燃焼点が異常に低い(約120℃)という特性を持つ。


■ 4. 生態


【餌】

幼虫は主にワタ産生植物や低木の葉を摂食。成虫は花蜜を好むが、乾季には腐汁や樹液にも集まる。


【行動】

蛹化の際、体表腺から分泌される特殊タンパク質と繊維質を紡ぎ、厚さ数センチに及ぶワタ繭を形成する。乾燥した気候下ではこの繊維が風に舞い、入植地の火気や静電気によって容易に引火し、しばしば野火を引き起こす。さらに、この火災で高木を焼き払い、餌としている低木の繁殖域を広めるという複雑な共生関係を成立させており、本種の個体群維持に大きく寄与している。


【繁殖】

雌雄異体。メスは一度に200〜300個の卵を低木の枝に産みつけ、孵化後は集団で摂食しながら成長する。蛹期は季節によって20〜45日で、繭内で変態を完了する。


【絶滅危惧度】

入植地周辺では駆除活動により急激に数を減らしつつあるが、保護区内や人跡未踏の台地中央部では比較的安定して生息。近年、一部地域で保護区が制定され、遺伝的多様性の保全が試みられている。


【現地民との関わり】

入植者からは「歩く火薬庫」と忌避され、駆除対象とされてきた。また、火口としては発火し易すぎるために用いられることはない。年間の推定経済被害額は120億クレジットに達する。


■ 5. 発見時の状況


私が初めてワタモウフリガの蛹を目にしたのは、アウレリウス・プライム第二区画の焼け跡調査中だった。白くふわふわと揺れる塊が枯れ枝に引っかかっており、てっきり地球産の綿花の残骸かと思い、無造作に捕まえた瞬間、静電気の火花で一部が「ボッ」と燃え上がった。


慌てて振り落としたが、幸い湿った苔の上に落ちて事なきを得た。現地の作業員は遠巻きに笑っていたが、その後「博士、それ一個で納屋が吹っ飛ぶこともある」と真顔で忠告されたのは忘れられない。以来、採取時には必ず防火布袋を携帯している。

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