ウチツツガムシ

■ 1. 学名・和名・分類


学名:Endocurtis consanguinea @ Varelis Beta

和名:ウチツツガムシ

分類:ヴァレリス・ベータ圏 動物界 節足動物門 軟殻綱 内寄生目(Endoparasitoidea)


■ 2. 生息地


惑星ヴァレリス・ベータの極東半乾燥地帯「ルロク盆地」に生息。地下浅層の石灰質土壌に穿たれたコロニー状の巣穴に集合して暮らす。気温変動の激しい地域だが、巣穴内は常に18〜20℃を保ち、湿度も安定しているため、寄生・発育に最適な環境が形成されている。主に薄暮時に活動を開始し、夜明け前には完全に巣に戻る。


■ 3. 成体の体長


成体は平均11〜14mm。雌雄共に透明度の高い外骨格を持ち、内部器官が透けて見える。腹部の第4節が異様に膨らんでおり、ここに寄生用の穿刺管と特殊な分泌腺が収まる。体色は寄生先の個体の体色に合わせて数時間以内に変化可能で、これにより群れ内での視覚的警戒を回避する。


■ 4. 生態


【餌】

本種は基本的に同種個体の体液と組織を摂取する真性同種寄生者である。寄生対象は主に若齢個体で、穿刺管から消化酵素を注入し、液化した組織を吸収する。栄養不足時には異種の節足動物にも寄生するが、成功率は低い。


【行動】

通常は巣穴内で穏やかに過ごすが、繁殖期には雌が他個体の巣室を徘徊し、若齢個体の外殻を軽く叩く「索敵行動」を行う。この行動音は同種成体にはほぼ感知されないが、幼体の神経節を刺激し動けなくする効果がある。


【繁殖】

雌雄異体。交尾は短時間で済み、雌は受精後すぐに寄生行動を開始する。卵は寄生対象の体腔内に直接産み付けられ、孵化した幼生は宿主の体内で成長し、最終齢で宿主を殺して脱出する。このため、同一コロニー内の個体数は一定以上増加しない「自己制御型捕食—寄生バランス」が成立している。


【絶滅危惧度】

個体数は比較的安定しているが、コロニーごとの局所絶滅が頻発するため、惑星全体での分布はモザイク状となっている。外来捕食者の侵入や巣穴の水没が大きな脅威。


【現地民との関わり】

ヴァレリス・ベータの先住民「シェルク族」は、この生物を「血の輪の守護者」と呼び、種内の過剰繁殖を防ぐ自然の調整者として尊重している。儀礼では、透明な殻を乾燥させたものを護符として用いるが、生体の捕獲は忌避される。


■ 5. 発見時の状況


初めてウチツツガムシを目にしたのは、現地調査でルロク盆地の地下巣穴に潜入したときだった。現地ガイドは「巣の中では長く立ち止まるな」と警告してくれたが、私は記録用のスケッチに夢中で動かずにいた。すると足元の土が微かにざわめき、小さな透明の影が私のブーツを軽く叩いた。何かの挨拶かと思った瞬間、同行していた助手の捕虫瓶の中で飼っていた別個体が、突然腹部を膨らませて絶命。後に解析すると、その透明の影が寄生卵を撃ち込み、わずか数時間で発育が進んでいたことが判明した。以来、巣穴に入る際は決して膝をつかず、常に動き続けるようにしている。

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