テツアカミミズムカデ

■ 1. 学名・和名・分類


学名:Macroglobis ferrucardia @ Orovian Prime

和名:テツアカミミズムカデ

分類:オロヴィアン圏 動物界 節足動物門 多足綱 鉄顎目(Ferrumandibulata)


■ 2. 生息地


オロヴィアン・プライムの北半球、氷原と火山地帯の境界に広がる「フルギア裂溝帯」に生息。地下の温泉洞窟や火山由来の鉱物層に沿って棲み、表層に現れるのは酸素濃度が高まる夕刻から夜間にかけてのみ。岩盤の割れ目や金属鉱脈周辺を好み、その赤褐色の体色は周囲の酸化鉄堆積層と見事に同化する。


■ 3. 成体の体長


全長約9〜11cm。節ごとにわずかに膨らむ円筒形の体を持ち、体表は半透明のクチクラで覆われ、内部の鮮紅色の血液が透けて見える。この血液こそが観測史上最大級の分子量を持つ「メガヘモグロビン」を含み、1分子で酸素を280分子まで結合可能。触角は短く太く、金属振動を感知する特殊な感覚毛で覆われる。


■ 4. 生態


【餌】

地下で繁殖する硫黄菌や熱水中の微小節足動物を摂取。強力な鉄顎で鉱物を削り、付着した微生物膜を舐め取る。嗅覚よりも振動感知能力が優れており、遠くの微細な水流変化や地殻の微動さえ検知する。


【行動】

低酸素環境に極めて強く、体内の巨大ヘモグロビンが酸素不足時でも代謝を維持。普段は緩慢だが、酸素飽和状態では突如として機敏になり、獲物や同種との遭遇時には稲妻のような速度で走る。地表に出る際は、月光に反応して体表をわずかに発光させ、仲間同士の位置を示す。


【繁殖】

雌雄異体で、体節間の分泌腺から放たれるフェロモンで相手を誘引。交尾は狭い岩隙内で行われ、雌は数十個の楕円形卵を鉱物表面に貼り付け、鉄分と菌糸で作られた保護層で覆う。孵化後の幼体はすぐに自力で餌を探す独立性が高い。


【絶滅危惧度】

現在は安定しているが、火山活動の減衰による地下熱源の喪失が長期的な脅威となる可能性がある。また、鉱物採掘を行う現地民の活動が局所的な生息地破壊を引き起こしている。


【現地民との関わり】

オロヴィアンの鍛冶民「グルド族」は、この生物の血液を高地での作業補助薬として利用する。摂取すると短時間ながら酸素運搬能力が飛躍的に上がり、高山や溶岩洞での労働に耐えられる。しかし、過剰摂取すると体内が過酸化状態となり危険なため、グルド族では摂取量を厳格に管理する慣習がある。


■ 5. 発見時の状況


初めてこの生物に遭遇したのは、フルギア裂溝帯の温泉洞窟で採鉱民の案内を受けていた時だった。洞窟の壁面に赤く光る筋が見え、私は鉱物の酸化縞だと思い近づいた。ところが、その「縞」はムクッと動き、足音もなく私の登山靴をよじ登り始めたのである。慌ててバランスを崩し、背中から温泉水に落ちた私は、装備一式を濡らしただけでなく、案内役のグルド族に大笑いされた。その後、彼らが「赤い血の精霊」と呼ぶこの生物が、実は酸素運搬能力の怪物であると知った時には、学術的興奮と同時に少しの恐怖すら覚えた。なにせ、10cm足らずの体に、地球のクジラすら凌ぐ酸素供給システムが詰まっているのだから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る