サテツヨロイムシ
■ 1. 学名・和名・分類
学名:Ferroscutum areniphilum @ Magnetis II
和名:サテツヨロイムシ
分類:第二惑星マグネティス圏 動物界 節足動物門 昆虫綱 砂鎧目(Arenascutodea)
■ 2. 生息地
マグネティスIIの赤道砂帯「ヘマタイト・シー」に広く分布。ここは砂丘の30〜40%が磁鉄鉱・赤鉄鉱の粒子で構成され、昼夜で強い温度勾配と砂嵐が常態化する。個体は風下側の砂丘脚部や、入植地周縁の鉄粉だまり(精錬施設のフィルター近傍)で特に多い。薄明薄暮性で、砂が最も動きやすい時間帯に活動を集中させる。
■ 3. 成体の体長
体長18〜27mm。背面は扁平で、体表から密生する短い剛毛が梳(くし)状に並ぶ。剛毛の基部には強磁性微粒子(マグネトソーム様結晶)を含む腺体があり、分泌するタンパク質接着剤とともに砂鉄を捕集して「可搬式装甲(ロリカ)」を築く。装甲は1〜2mm厚の薄板状で、個体ごとに色調が異なり(黒〜赤褐色)、脱皮のたびに新調される。
■ 4. 生態
【餌】
主に砂丘植物の根圏に形成される微生物バイオフィルム、鉄酸化細菌のコロニー、死んだ節足動物の残渣。口器は擦過型で、鉄粒に付着した有機膜を削ぎ取るのに特化している。摂食に伴い少量の鉄イオンを取り込み、酸化還元酵素の補因子として利用する。
【行動】
最大の特徴は防御行動で、体表の剛毛を一斉に立て、分泌接着剤を霧状に放出して周囲の砂鉄を瞬時に吸着、10〜15秒で全身を「鉄の葉片」で覆う。外敵に対しては、装甲を擦り合わせて高周波の摩擦音を発し、捕食者の感覚器を飽和させる。強磁場を帯びた入植施設に近い個体は方位感覚が乱れやすく、群れがベルトコンベアの下に整列して“無限行進”を起こすことがある。
【繁殖】
雌雄異体。砂丘の背斜部に浅い産卵坑を掘り、卵塊を鉄粉で厚く被覆して迷彩と乾燥防止を行う。孵化した幼虫はトビケラに似た「可動ケース」を自作し、細粒の砂鉄を糸で綴じて背負いながら移動・摂食する。終齢でケースを拡幅し、そのまま前蛹〜蛹室へと転用するため、砂鉄ケースの層序が成長履歴として読み取れる。
【絶滅危惧度】
広域では普通種だが、入植地の強力な産業磁場により迷入・大量死が局所的に発生する。また、精錬過程で粒径が均質化された鉄粉は装甲の通気性を奪い、過熱死のリスクを上げる。総合評価は「準安定」だが、産業磁場と粉塵粒径管理が保全の鍵。
【現地民との関わり】
入植地では「ダストガード」として半ば歓迎される。彼らの装甲が鉄粉を固着・落下させるため、歩道や吸気口周りの清掃を実質的に手伝っているのだ。一方で、機器の磁気センサー室に侵入して装甲を置き去りにする“置き鉄”被害も多く、施設では低磁化素材への更新や周波数可変の忌避音発生器が導入された。子どもたちの間では、装甲の模様を競う「砂鉄甲虫相撲」が流行しているが、生体の惑星外持ち出しは禁止、観察は現地のみが原則である。
■ 5. 発見時の状況
私が初めてサテツヨロイムシの「瞬間着鎧」を見たのは、磁選プラントの排砂帯でのこと。携帯磁束計を取り出した途端、足元の砂がざわめき、数十匹が私のブーツに殺到——次の瞬間、ブーツは赤黒い鱗片に覆われ、私は歩く鉄塊と化した。慌てて足を引き抜くと、装甲だけが綺麗に剥がれ、見事な“ブーツ型ロリカ”が残った。現地技師はそれを壁に掛けて「防塵お守り」にしようと言ったが、私は泣く泣くその場で解体・記録のみ。防疫の原則は、どれほど洒落が効いていても曲げられない。なお、その後の実験で、装甲形成は静電気と微弱な自己磁化の相乗効果により起こること、そして装甲の層に含まれる微小化石から、彼らが砂丘の古環境の“年輪”を身にまとっていることまで分かった。なるほど、彼らが誇らしげに胸を張るわけである。
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