あの三日月に届くなら

灰都

第1話 三日月ゆら.1

 ――とある小学校の校長室。そこには窓から外を眺める若い男がいた。窓の外にはたくさんの桜が咲いている。

「ふふっ……もうそろそろ、か。」

男は笑いながらそう言うと、脳裏にある景色が浮かんだ。それ若い男の死体とその妻らしき女の死体だ。赤いカーペットがより紅く染まっている。そしてそこにはもう1人いる。その光景を目にしてい泣いている幼い子供の姿だ。

「ゆら………。」

そう言いながら男は目を細める。椅子に座ると、電話をかけた。

『もしもし、ゆうりくん?どうしたの?』

「もしもし、ミリア、あとどれくらいでこっちにつきそうか?」

『んーそうねぇ。少なくともあと3日はかかると思うわ。』

「分かった。1週間後までに来れたら大丈夫だ。」

『はーい。それなら大丈夫よ。』

「分かった。ありがとう。」

そういうと、電話を切った。

「………ふーっ。」

長く息を吐きながら、椅子の背もたれにゆっくりともたれかかる。

「……早くこい、ゆら。」

そう呟くと、椅子にもたれかかったまま目を閉じた。





 「えぇ。それじゃあよろしくお願いします。」

「はい、こちらこそ。」

小学校の窓口と思わしきところで、転入予定と思わしき子供とその父親、そして先生が話している。

「ほらゆら、おまえもあいさつしろ。」

そう父親が優しく子供にいうと、ゆづきと呼ばれた子供が小さくお辞儀をして、すぐに父親の後ろに隠れた。

「あっはは、すみません。人見知りなもんで。」

「いえいえ。多分緊張しているんだと思います。」

最初はそんなものですよ〜というと先生は子供に合わせてかがんで、

「これからよろしくね、ゆらくん。」

と言ったが、子供はおびえているようでまた小さくお辞儀をするだけだった。

「先生すいません、それでは失礼させていただきます。」

「えぇ、お気をつけて。」

先生は帰っていく父子に手を振った。


 「ゆら、入学手続きは済ませておいた。必要なもんもあらかた買っておいたぞ。」

さっきの父親……ラグナがプリントの束を机に置きながら言った。

「…………。」

さっきの子供……ゆらは無反応だ。いや、反応できないくらいに興奮しているのが目にとってわかる。体全体から汗がこぼれ落ち、顔は真っ赤に染まっている。

「落ち着け。」

ラグナがキッチンでコーヒーを注ぎながら冷静に諭す。

「その調子じゃ出会ったときに興奮を押されられずに襲いかかるぞ。」

「………わかってる。」

ゆらはうつむき、顔をしかめた。

「………お前が今の自分じゃ到底かなわないと思ったんだ。しばらく潜入して弱点でも探さないと無理だ。」

注いだコーヒーをゆらの前に出す。

「…ありがとう。」

「あぁ。」

ゆらがコーヒーを飲んだのを見ると、ラグナは机の上の書類に目を通した。そこにはゆらの両親敵が載っている。

(ゆらが幼い頃に殺された両親の敵……実の兄、三日月ゆうり。それを殺すのがゆらの目的。)

三日月ゆうりは現在小学校の校長として身を潜めていることを2人は突き止めていた。

(だがこのままではゆらは勝てない。だから潜入して弱点を探るしかない。)

小学校に通って三日月ゆうりの弱点を探る。

これが2人の計画であり、ゆらの生きる意味であった。




 「行ってくる。」

ランドセルを背負ったゆらが玄関の前に立っていった。

「……あぁ。」

ラグナがゆらの姿を感慨深そうにまじまじと見る。

「どうかしたのか?」

不審に思ったゆらがラグナに問いかける。

ラグナは目を細めて笑った。

「ふふっ、なんでもないよ。」

「…?」

「ほら、遅れるぞ。行ってらっしゃい。」

ラグナがゆらの背中を押す。

「あぁ。行ってきます。」

そう言ってゆらは家を出た。

 ガチャッとドアが完全に閉まる音がしたあと、ラグナが嬉しそうにつぶやいた。

「……あのゆらがランドセルかぁ~っ。」

ゆらのことを幼い頃から見てきたラグナはまた目を細め感慨深そうに笑う。

小さい頃からゆらに生きる術や奪う術教えてきたラグナにとってゆらのランドセル姿はなにより感慨深いものだった。

「……お前にも見せてやりたかったよ。なぁ、シレン。」

ラグナはそうしみじみと呟いた。

でも、だからこそ………。

(あいつはこのままで幸せになることができるのか。)

そう、ラグナの中で疑問が渦巻いていた。

その瞬間、ピンポーンと突然家のベルが鳴った。

「はーいすぐに出ます。」

そういうと玄関のドアを開けた。



「こんにちは、ラグナ。」



――そこにいたのは不敵に微笑む三日月ゆうりだった。

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