オレの勇者パーティは全員アホだが強すぎる。

エース皇命

第1章 リーダーがアホすぎて

0001 オークキングの襲来

 異世界に来て3年。


 それっぽい訓練をこっちで続けていると、いつの間にか超人的な力に目覚め、仲間ができ、勇者パーティを組んでいた。

 それも、王国最強の。


「久しぶりだイレギュラーズ! よく聞け! オークキング、王都に参上!」


 オレの勇者パーティの名はイレギュラーズ。

 全員頭がおかしくて規格外なので、王都の連中にそう名付けられた。


 そして今、王都セントリアの街はオークキングの襲来によって戦場と化していた。


「ていうか、あいつまた来たのか? 月に1回は来てるよな?」


「毎回トドメを刺さないからだ」


 オレのぼやきに反応したのは、イレギュラーズの頼れる魔術師、ジャック。


 彼はメカノイドという種族の、所謂いわゆる機械人間サイボーグで、頭、左腕、右脚以外は全てがメカメカした男だ。

 頭部はというと、カーリーヘアの黒人である。


 ジャックもこの異常者だらけのパーティの仲間なので間違いなくアホではあるが、一応まとも枠だ。


 知識は豊富だし、分析が得意。

 困ったことがあればとりあえずジャックに聞くのがイレギュラーズの暗黙の了解でもある。


 オークキングは100体を超えるオークの軍勢を率いて、王都に攻め入っていた。


 一般人の悲鳴が飛び交い、街は混乱の中にある。

 どれもこれも、月1でやってくるあのアホオークのせいだ。


 オレたちは王国最強のパーティ。それは間違いない。オークキングと戦って危機に陥ったことは一度もないし、毎回圧勝の中の圧勝だ。


 負けるとわかっていながらも、勝負を挑みに来るのは他にやることがないからなんだろうか。


 まあ、オレたちも結構暇だし、遊び相手がいた方が退屈はしないな。


 オークキングと戦うために街に出たのは、オレ、ジャック、猫耳が特徴的な少女ランラン、絶世の美女であるシエナの4人。


 それぞれが得意な戦い方で、いつもみたいに無双している。


「おいカゲブンシン、主導者リーダーはどうした? 朝寝坊か?」


 オークキングが聞いてくる。


 カゲブンシンはオレの二つ名。

 一応役職は忍者なので、テーマ的には合っている。でも問題は、オレが影分身なんてできないってことだ。


 影分身できないのに、二つ名はカゲブンシン。脳が混乱する。


 そしてもう1つ肝心なことは、今が朝だということ。

 せっかくのグッドモーニングが、オークキングのせいで台無しに。着替える時間はあったけど、朝食を食べる余裕くらいは残してほしかった。


「クリスは髪のセット中なんだ。あんたが朝っぱらから暴れ出すから」


「それは……悪い」


 なんか素直にオークキングが謝ってくれた。


 謝るくらいなら攻めてくるな。


「クリスさん、また髪のセット中ですか~? もういっそのこと、セットしてから寝ればいいと思うんですけど」


 オークの軍勢にネコパンチを繰り出しながら、ランランが文句を言ってくる。


 ランランはパーティで1番のアホだ。

 猫耳にふわふわしたミディアムボブのピンク髪。ぴょこっと出たアホ毛。


 17歳の最年少メンバーで、そしてやっぱり、1番のアホ。


「意外にもクリスは寝相が悪いんだ。いつも寝癖ヤバいのは知ってるだろ?」


「あれ、そうでしたっけ?」


「それに変なこだわりのせいで、ちょっとでも歪んでたらすぐ直しにいくから……最初からガチガチに固めないとだめなんだ」


 オレたちの主導者リーダーの名前はクリス。


 金髪碧眼のイケメンエルフで、とにかく強い。

 超人なので空を飛べるし、剣聖と呼ばれていたほどに剣術にもけている。


 優しいし性格もいいんだけど、やっぱり彼もアホだ。


「アキラ君、先にオークキングを倒した方がよさそう」


「だな」


 まともな提案をしたのは、イレギュラーズの華である絶世の美女シエナ。


 とりあえず超美人で、超強い。

 狙撃手スナイパーなので遠距離攻撃が得意で、独自で開発したシエナガンという魔力の弾を飛ばす拳銃みたいなやつで敵をバンバン撃っている。


 特許を申請しているので、シエナ以外の人間がシエナガンを作ることはできないし、そもそもそんな技術もない。


 他のオークの雑魚ザコはジャックとランランに任せるとして、オレとシエナはキングオークのところへ向かう。




 キングオークは王都の代表的な広場にあるセントリー泉の前に立ち、一般人が逃げ惑う光景を満足そうに眺めていた。


 オレとシエナが近付いているのを確認しても、動こうとはしない。


「自分が負けるってわかってるのに、また勝負を挑みに来たのか?」


「おいおい、ワシはオークキングだぞ! 確かにお前たちは強いが、オールバック・エルフ不在のイレギュラーズに負けるとは思っとらんわ!」


 ちなみに、オールバック・エルフっていうのはクリスの二つ名だ。


 一応言っておく。

 二つ名は自分でつけるわけじゃない。街の人から勝手に呼ばれて、それが政府から公式認定されてしまうって流れだ。


「あのさ、この状況見ればわかると思うけど、もうすぐオレたち勝つよ?」


「面白いことを言うではないか」


「アキラ君、オークキングは人の話を聞かないみたい」


 シエナの言うことはもっともだ。

 残念ながら、オークキングもアホだし、まともそうに見えるシエナもなんと……アホなのだ。


 オークキングの横に並んでこちらが優勢の戦況を眺めていると、急にヤツが笑い出した。

 いきなり笑うとか怖いって。予告くらいしてよ。


「わかっていないようだが、今日のワシは一味違うぞ!」


「ほうほう、聞かせてもらおうじゃないか」


 こうして落ち着いて敵と会話しているのも、こっちが完全に強いことがわかっているから。


 なんか長くなりそうなので、泉の近くのベンチに腰掛ける。

 シエナも隣に座ったし、なんか流れでオークキングも座ってきた。もう月1で会う友達感覚だな。


「ワシはこうして毎回お前たちに宣戦布告して、わかったことがある。まず、イレギュラーズが強すぎて、到底かなわないってことだ」


「お、おう」


 別にいいけど、もっとこう、強さへのプライド的なものはないのか。


 すんなり認めるとか、素直だなおい。


「そこで天才のワシは考えた。こうして王都に攻め入っていると見せかけて、一般人の美女をこっそり本拠地ホームに連れ帰ってみてはどうかと」


「それって誘拐じゃん」


「そうとも言うな。だが、それだけではない」


「ほうほう」


「誘拐した一般人どもには、美味うまい飯と快適な部屋で最高のもてなしをする。そして王都の実家に帰りたくないと思わせるわけだ! どうだ! 天才的な発想だろ!」


「誘拐にしては優しすぎるな」


 やっぱりオークキングもアホだ。

 毎回トドメを刺してこいつをぶっ殺さないのは、なんか悪い奴ってわけでもなさそうだから。


 そしてまあ、クリスはたいていの敵を、可哀想かわいそうじゃないか、って理由で見逃すし。

 月1の関係になるわけだ。


「――ていうか、オレたちにその作戦話しちゃったけど、いいのか?」


「え……」


 シュールな風が通り過ぎる。


「作戦バレバレだろ」


「ま、まあ、ワシの秘密の要塞の場所がわからなければ、お前たちでも人質を助けにはこれないだろう! どうだ!」


 なんかオークキングが可愛く思えてきた。


「アキラ君」


「ん?」


 シエナがオレのいかにも忍者っぽい戦闘服スーツの袖を引っ張っている。

 その仕草があり得ないほど可愛かった。


「リーダーが来たよ」




 我らが主導者リーダー、オールバック・エルフの登場は派手だった。


 スーパーマンみたいな飛び方で現れたかと思うと、右手に構えた剣で次々とオークをなぎ倒していく。


 剣を投げ、剣がくるくると回転しながらオークを斬り、そしてクリスのところへ戻っていく――まさにチートな戦いを披露する最強の勇者ヒーロー


 赤マントに金色ベースの戦闘服スーツ

 オールバックも決まってるし、そしてやっぱりイケメンだ。ザ・ヒーローな笑みをまき散らしている。


「遅刻常習犯のリーダーも来たし、そろそろお開きにするか」


 ベンチからゆっくり立ち上がり、オークキングの前に立つ。


「カゲブンシン、ワシが何も考えずにお前と会話していたとでも思うのか?」


「思うけど」


「そ、それは心外だ! まあいい、許そう。長い付き合いだからな」


 やっぱりオレたちに愛着湧いてるじゃん。

 それもそうか、月1の間柄だしな。


「こうして楽しく会話している間にも、ワシの部下どもが美女を連れ去っておるわ! マジックノイドとストレイキャットの相手をしていたのも、時間稼ぎ部隊というわけだ!」


 マジックノイドはジャック、ストレイキャットはランランのことだ。


「やられたな……」


「このままだと一般市民に被害が出る」


 余裕だと思っていたが、作戦はちゃんと実行していたらしい。


 ジャックたちに丸投げだったのがよくなかったのかな。


 いや、遅刻してきたクリスに問題があるぞ、今回は。


「アキラ、遅れてすまない。そっちはどうだい?」


「あ、戦犯」


 戦犯クリスが飛んできた。

 浮遊力を活かしてふわっと着地する。


「遅刻してきたかオールバック・エルフ! お前のせいで今回こそイレギュラーズは敗北だ!」


 悪役感あふれる高笑いを披露するオークキング。

 そのまましれーっとこの場から逃げようとしている。バレバレだ。


「まあまあ、アキラ。ここは見逃してあげよう。市民に被害はなかったわけだしね」


 ちゃんと被害は出たわけだが、何も言わなかった。

 ハンサムな笑顔に流されてしまったのだ。


 そのまま静かに、オークキングの退場を見送るオレたち。オークキングは結構本気ガチでダッシュしている。なんだかアホっぽいな。


「ちなみに言うけど、市民、あいつに誘拐されたぞ」


「なんだって?」


「オレたちが戦ったオークはおとりだったってことだ」


「まさか……」


 クリスが言葉を失っている。

 一応いつも勝利しているわけだし、ちょっとした敗北は屈辱的だよな。


「まあなんとかなるよ。とりあえず、今は本拠地ホームに戻ろう。朝食がまだだからね」


 主導者リーダーは思っていた以上にポジティブな男だった……。

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