通り魔たるには

______


「最近」


 足が疲れてきた。

 並んで歩いていたルルゲラはどうでもよさそうな口調で言う。


「通り魔が出てるらしいな」

「え?」


 あまりにも突拍子のない言葉に、俺はまあ何ともマヌケな声を上げる。

 俺はレブルズの定例会から傭兵団の野営地へ帰還した後、日も昇り切らない朝早くから次の戦場へ向かって行軍を続けていた。


「ほら、ドルタリア地区の方で随分と派手にやってるって……」


 ドルタリアというのはダリファやセゴビアがある地区のことだ。スタリカ王国南端、ドルタリア地区。スタリカ王国の中でもかなりの田舎。


 「知らないのか?」


 ルルゲラが俺に怪訝そうな眼差しを向けた。

 なんでだ。むしろ俺はお前が通り魔を知っていることに怪訝な表情をしたくなるんだけども……。戦場暮らしの傭兵がどうやって通り魔のことを知ったのだろう。


 「生憎、知らないね」


 嘘。俺は今朝……、厳密に言うと朝かは分からないけれど、レブルズの集会でチラッと耳にするだけはしている。だが、耳にしているだけだ。他は何も知らない。中途半端に知っている。

 そのせいか、俺の中で今一番ホットなワードは通り魔だった。気になる。


「こんな場所でも話題になってるっていうのにか?」


 一体全体どこから話題になっているというんだ。


 俺は「ああ」と、適当に相槌を打つ。


 別に、嘘をついたことに深い理由はない。ただその方が通り魔について知れるかなと思っただけだ。

 __こんなことなら定例会をちゃんと聞いておくべきだった。

 まったく後の祭り、祭りの後だ。


「そういうの……人から聞いたりしないのか?」

 

 まったくまた怪訝そうな眼差しを向けて、ルルゲラは言った。なんだか俺がいつも独りぼっちみたいな言い方だ。


「今お前から聞いたばっかだよ」


「嘘だろ……。まあお前そんなワイワイ騒ぐタイプじゃないもんな。そういう話ってのは人のいる場所に集まるから、仕方ないのか」


 ルルゲラは独り言のように呟いた。どうやら1人で納得したようだ。


「そんなことが起きてるんだな」と、話題を戻すため、俺は言った。

 いい加減通り魔のことについて知りたい気分だった。

 

「ああ、最近はみんな通り魔のことで持ち切りよ。もう15人殺されたらしい。しかも犯人は捕まってなくてまだまだ逃走中。被害者はこれからも増えるだろうな」


「その15人ってのは多いのか?」


「2カ月で15人だからな。半端じゃなく多いだろ。物騒だよなぁ~。」


 今俺達が何をしに行軍してるかというのはさておこう。


 しかしそうだとしても4日に1回、4日に1人は殺しているわけで……。かなりのハイペースだ。

 なるほど、それは確かに物騒で、半端じゃなく多いのかもしれない。


「その殺され方もまた物騒らしくてさ!」ルルゲラはいささか興奮気味に言った。

 最初のどうでもよさそうな態度なんて微塵も感じ取れない。


「四肢のどっかが切断されてるのに加えて、腹が切り開かれて内臓がぐちゃぐちゃになってるらしいんだよ。それが全部の死体に共通してるらしい」


「ふぅん……なるほど、そりゃまた物騒だ」


 というか随分と詳しく遺体のことを知っているな。一体全体本当にどこから聞いたんだそんなこと。


 余りにも詳しいものだから、一瞬、ルルゲラが犯人なんじゃないかと疑ってしまった。でも戦場暮らしの傭兵が知っているくらいだ。この程度の情報、詳しい内に入らないのかもしれない。


「でも、それって1人がやったことなのか?」

 

「というと?」


 ルルゲラは中々食い気味に反応してきた。


「まるで物騒な通り魔1人による連続殺人みたいに言っているけど、その通り魔ってのが殺したのは最初の1人だけで後の14人全員を模倣犯が殺したってこともあり得るんじゃないか?ってことだよ。14人全員ってのも、模倣犯が1人だけってのも言い過ぎだが、同じ殺され方をしているから同じ人がやったっていう考えかたは、ちょっと短絡的じゃないか?お前がその殺され方について知っているってことは、それも世間に広がってるってことだろ?模倣犯が生まれる可能性は十分にあると思うぜ」


 「通りすがりに危害を加えるから通り魔なんだ。通り魔が通り魔たるには通りすがりに危害を……今回の場合は殺さなきゃならないんだ。裏を返せば、今回のやつが通り魔と呼ばれてるってことは、通りすがりに危害を加えてるということが分かってるってことだ。死体の中には路地裏で見つかったものもあるってのによ」


 「なるほどね。毎回目撃者がいるってわけだ。それでその目撃証言が一致してると」


 そうだ、とルルゲラは軽く頷いた。相変わらずなんでそんなことまで知っているのだろう。もう、その噂ってのは通り魔自身が広めているものではないのだろうか。


 そんなことをする意味は分からないが通りすがりに人を殺すようなやつだ、本当に広めていたとしても常人に理解できる意味も理由もないのだろう。


 「毎回必ず、1人は目撃者がいるんだ。そして見せつけるようにまず首を掻っ切る。

そんで目撃者が助けを呼びに行んで戻って来た時にはもう遅い。そこには四肢のどこかが切断され、腹が切り開かれて内臓がぐちゃぐちゃにされた死体しか残ってないってわけだ」


その通り魔ってのは中々にスピーディーなやつらしい。まあ俺には目撃者が助けを呼んで現場に戻ってくる時間なんてのは見当もつかないものだったけれど。


 

 

 





 


  




 

 

 


 

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