アイスタントの手から光線が放たれた。俺は少しかがんでその光線を躱す。

 __アイスタントが遠距離より近接戦闘が得意なのは噓ではないのだろう。現に棒術と魔術が組み合わさった攻撃は遠距離戦闘よりも的確に俺の命を掠めてきている。

 だが俺だって魔術を組み合わせた近接戦闘は得意だ。

 

 「冥命界断アビスカッター

 「ッ……!」


 魔術を防ごうとした鉄棒ごと、俺はアイスタントの左腕を切断した。今度は血がぼとぼとと砂浜に凹凸を作る。首を狙ったはずだが、少しずれたのは間に鉄棒が挟まったからだろう。


 「クソッ……。やっぱりそんな気がしたんですよ。厳しいなあ」


 左腕を切断されたというのに少し驚いたような仕草をしたのみで、焦ったような姿一つ見せずにアイスタントは右腕だけで短くなった鉄棒を振るい続けていた。

 左腕を失ったことでバランスが取りにくそうな姿をみせているものの、鉄棒を振るう速度はむしろ上がっているような気がする。


 「……直さないのか?」

 「あなたと一緒にしないでくださいよ。僕はそう簡単に欠損を直せないんです。せいぜい血を止めるぐらいしかできない。アクアサポートがやられた時点で僕にとってはかなり厳しい戦いなんですよ」


 確かに砂浜に凹凸を作っていた血は既に止まっているようだった。


 「冥命界断アビスカッター!」

 「流石にね。僕は弱いけど同じ手に二度引っかかるほどじゃないです」


 鉄棒が素早く突き出された。


 「ウッ……!」


 迂闊だった。俺の魔術の隙を突かれ右肩を殴打されてしまった。思わずうめき声が漏れる。右肩で済んだのはアイスタントが左腕を失いバランスを上手くとれていなかったからだろう。アイスタントも首を狙ったはずだ。


 そんなことよりまずいのは、今ので俺の攻撃の手が止まってしまったことだ。やはりアイスタントは詰め寄ってくる。

 しかし、それが俺の命を脅かすほどかと言われると、まったくもってそうではなかった。俺は繰り出される打撃を全て躱すか弾くかをしていなした。


 「ハッ!!」


 それでも攻撃は休まることを知らない。今度は超近接戦だ。鉄棒と剣がぶつかり合う音がより間近で聞こえる。

 長剣ロングソード最大リーチ半分ほどの距離での打ち合い……。その中でアイスタンが欠損した左腕をこちらに向けてきたのを、俺は見逃さなかった。

 アイスタントの腕が瞬時に再生し、手刀が俺の首向かって突き出される。

 大噓つきめ。こいつはまったく厄介な相手だ。


 「これを見切るんですか……」

 「まったく大嘘つきめ。再生できないというのも嘘だったな」


 俺はもう一度アイスタントの左腕を剣で切断。体を蹴り飛ばすことで距離を取った。


 「やれやれ……、なんで今のに対応できるんですか。もう打つ手が無くなって来ましたよ。一体全体どうしてこうなったんでしょうね」

 「その打つ手が無くなって来たってのも、どうせ嘘だな。本当はまだ打つ手なんて何本も用意してるんだろ?」


 俺は猜疑心をたっぷり込めながら言った。


 「いえ、ほらもうこのように一本しかないでしょう?」


 鉄棒を握っている右手を振りながらそのようなことを言う。


 「じゃあまた手も策も生えてくるな」

 「ハハハ、それじゃ試してみましょうか。僕がどんなに正直者の嘘つきかを」


 相変わらずまったく危機感を感じていないような口調でアイスタントは言った。へらへらとした口調でただ自分がキツイことを淡々と伝えられてもまだまだ底知れぬ感じがしてならない。

 その裏にはまだまだ嘘で塗り固められた策があるはずだ。

 

 アイスタントは鉄棒を握りしめた右腕を後ろに大きく振りかぶった。腕が振りぬかれた瞬間、鉄棒が勢いよく俺に向かって投擲された。

 毎度のことだが、やはり狙いは首だろう。


 「天界兵器ヘヴンズウェポン・ナイフ」


 同時にアイスタントは投擲した鉄棒の代わりに刃渡り20cmほどのナイフを生成し、右腕を突き出して切りかかって来た。

 ナイフを生成したのは、恐らく右腕だけでは振り回しにくい鉄棒を捨てて身軽になるためだろう、だがその鉄棒を捨てたアイスタントの構えは隙だらけだった。


 それもどうせまた何かを企んでいるのだろう。いいさ乗ってやるさ。正面から嘘も策も攻撃も叩き潰してやる。


 「冥府の狂撃アビスブレイブ!」


 剣に魔力を込め、圧縮する。

 俺は首に突き出されたナイフを頭を傾けることで軽く避けると、ナイフを突き出したことで無防備になった右腕も肘の先から剣で容易く切断した。


 「グッ……!!」


 アイスタントからうめき声が漏れる。切り落とした右腕が空間を捻じ曲げるような激しい音を立て、爆発した。、またもや砂埃があたり一帯に舞う。

 俺は一瞬困惑。だがすぐに理解した。今のは自爆特攻だったのだ。右腕に魔力を集め、圧縮し、炸裂させる。そんなものを近距離で食らえば普通、致命傷は免れない。


 俺が普通だったらの話だが。

 咄嗟に防御壁を生成し、俺は無傷だった。

 さて、アイスタントはどこだろう?距離を取られた気がするが……砂ぼこりで見えない。

 __そして、気づく。


 体が動かない。__砂に拘束されている。咄嗟にアクアサポートのことが脳裏に浮かんだ。まさか生きていたのか?いやしかし確実に首をはねたはずだ。この目でしっかりと見た。

 取りあえず拘束を……。


 「この一瞬、僅かな時間が欲しかったんです。撲滅せよ、天魔葬送ルノナフューネラル


 俺が拘束を解くまで、その一瞬僅かな時間にアイスタントは魔法を……、無詠唱で俺に向かって放った。

 



 


 


 


 

 

 

 


 


 

 

 

 

 


 


 


 

 


 



 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る