救出
さて、セゴビア大通りの路地裏についたのだが、やはり大通りの奥の方は騎士たちでごった返していた。どうやら森に送った騎士たちも戻ってきているようだ。
急いで果実店を探さなければならない__拘束されてるなら解放も必要だ。
とりあえず仮面を外して近づいてみよう。服装はみんな似たり寄ったりだし、ばれないはずだ。
「クソっ!なんという体たらくだ!みすみす反逆者どもを逃がしおって!おい!起きろ!」
先ほどの隊長らしき人物が周りの騎士たちを叱咤している声が聞こえてきた。気絶しているやつもいるようだ__俺の置き土産にやられたのだろうか。
死人はいないと思うが申し訳ないことをした。責任問題になることは避けられないだろうな。
いかんいかん果実店を探さないといけない__大通りにある果実店というと、鍛冶屋が隣にあるあそこだろうか、もっと詳しく聞いておけばよかった__なにしろここはセゴビアで一番活気のある場所だ。
と、思ったのだが。
「あった……」
俺が一番最初に見つけた果実店の上の看板にはでかでかと『レフターヌ果実店』と書かれていた__店は路面店となっていて1人の男が客引きをしている。アティッカの父親だろうか、ザ・力持ちのような風貌をしている。
「アティッカのお父さんですか?」
「アティッカ・レフターヌの父だな。ついてきてもらおう」
俺の声が後ろにいた別の男の声と重なった__振り向いてはいけない。振り向かなくてもわかる。こいつは騎士だ__反逆者達の家族を捕らえに来た騎士だ。
「そうだけど……なんだあんたら。アティッカなら今はいないぞ」
瞬間、俺は仮面を身に着け、後ろにいる騎士を思いっきり蹴りとばして魔術で拘束し、急いでアティッカ父までのわずかな距離を詰める__大丈夫、顔は見られていない。
「なっ!貴様は!」
「何だよ急に!喧嘩するなら出て行っ……」
「黙れ時間がない!アティッカにもう1度逢いたいなら俺に従え!アティッカの母……お前の妻はどこにいる!」
俺は襟元を掴んで怒鳴り散らした。
「なんだ……アティッカに何かあったのかよ!おい!」
「詳しくはあとで話す。母親はどこだ!案内しろ!」
「アティッカは無事なのか!?」
「いいから急げ!あんた死ぬぞ!」
「クソッ……!あいつなら今は買い物に行ってる!こっちだ!」
「黒仮面だ!黒仮面がここにいるぞ!」
俺は叫ぶ騎士を横目に走り出したアティッカの父へとついていく、運がいいことに走り出した方向に騎士の姿は見えない__だが街行く住人の好奇の目が突き刺さる。
「どういうことなんだよ!ちゃんと説明しろ!」
「あとで説明してやるから急げ!今この状況では騎士は敵だ。急がないとあんたら夫婦2人とも死ぬんだ。アティッカには必ず合わせてやる」
「あそこだ!あの赤のワンピースを着ているのが妻だ!」
そんな調子で言い争いながら走っていると確かに赤いワンピースを着ている女性が俺の目に飛び込んできた__これならすぐに送れる!
俺はすぐさま魔術を発動し、アティッカの父と母と一緒に路地裏へと舞い戻った。
「ここは……あなたは誰なの?」
買い物かごをぶら下げているアティッカの母は急に訳の分からないところに飛ばされて混乱しているようだった__いや、訳の分からないところに飛ばされたのはアティッカの父も同じだ、もちろん同じく混乱している。
「緊急事態だったとは言え、このような乱雑な形になってしまった。申し訳ない」
「アティッカはどこだ!無事なのか!?」
アティッカの父が胸倉につかみかかって来た。
「!?……あなた!アティッカに何かあったの!?」
2人の態度からは娘を愛している様子がひしひしと伝わって来た__それが俺には少々羨ましかった。
「……アティッカならあんたらのすぐ後ろにいる」
「……お父さん?……お母さん?」
「アティッカ!」
2人はアティッカへと猛スピードで駆け寄った。両親を見て安心しきってしまったのだろう__アティッカはすぐに泣き出してしまった。
「……これはいったいどういうことだ。説明してもらおう」
ひとしきり抱き合った後、アティッカの父は俺へと体の向きを変えて、俺をにらみつけた。
「待って!お兄ちゃんは悪くないの!」
「待てアティッカ……俺から説明しよう」
俺は今自分が知っていること、レブルズに至るまで端から端まで一つたりとも漏らすことなく全てを説明した。そうやって説明を続けていると2人は途中から泣き出してしまった
「アティッカ……全部本当のことなの?」
「うん……お兄ちゃんは私たちを助けてくれたわ……お母さん……お父さんごめんなさい……」
「いいんだ……いいんだよアティッカ……俺たちがお前を守れなかったのが悪いんだ…………黒仮面、さっきはすまなかった。娘を助けてくれてありがとう」
「別にいいんだ。それで……言いにくいんだがこれからあんたらには一家総ぐるみでレブルズに入ってもらうことになると思う。娘をこんな目に合わせた組織に入ることは気が引けると思うが許してほしい。それ以外に道はないんだ」
なかなか酷なことであるのは俺も理解している。だがそれ以外に打つ手が存在しない。思いつかない。俺はほかに人を匿ってくれるあてなど持っていないのだ。
「分かった……家族で過ごせるならなんだっていいさ」
なんとか納得してくれたようだが……ところで……どうも分からないことがある。まだまだ年端も行かない子供であるアティッカをレブルズに勧誘した合理的な理由……親が健在なので慈善事業というわけでもないだろうし……
結局それが分からないまま、検討すらつかないまま、俺はレブルズのアジトへ向かうこととなった。
少々説明が大変かもしれない。
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