潜伏

 「なんだこの化け物はあああああ!!!!!!」


 黒人形を見た騎士が叫んだ。驚き、怯えを含んでいる声である。それでも勇敢に立ち向かっていく姿は手放しで尊敬できるものだ。さて、そんなことを思いながらも俺の体は泥沼に飲み込まれていった。


 ____


 バーンを殺した洞窟の深層についた俺はまず人数を確認する____19人。ちゃん全員無事に送れたようだ。


 「ワシたちを助けてくれたのはお主か……どうもありがとう。代表して礼を言わせてくれ」


 メンバーの中で一番の年長者と見受けられる男が、真っ先に深く礼をした。ここの支部のリーダー的存在だろうか……年齢は60代前半ぐらいに見える。


 「礼ならいいさ。感謝されたくてやったわけじゃない。知り合いが連行されるのを見て耐えられなかったんでな……ただの自己満だ。それはともかくあんたらはレブルズのメンバーだろ?なんで捕まった?」


 「やっぱりワシたちのことを知っているんじゃな…………裏切り者が出たんじゃ。このレブルズセゴビア支部の副支部長だった男が裏切った。おそらく金に目がくらんだんじゃろうな。こういう組織を通報するだけで多額の報奨金が手に入るのは君も知っているじゃろう?」


 裏切り者か……俺が危惧していたことだ。あの時、即決で入団を決めなかったのは功を奏したといえる。


 「支部長はあんたか?」


 「そうだ。自己紹介がまだじゃったな。ワシはレブルズセゴビア支部の支部長、レジン・ダランだ。普段はこのセゴビアの町で鍛冶師をしとる。まあもう仕事はできないと思うがな。気軽にレジン爺さんとでも呼んでくれ」


 鍛冶師……確かに武器を買いに行ったときに見かけたような気がする。本当に気がするだけかもしれないが。


 「俺は……そうだな。悪いが本名は名乗れないから黒仮面とでも呼んでくれ。レブルズのことはそこのセラから聞いて勧誘を受けた。つい昨日のことだ」


 「ふぇっ!」


 一瞬にしてここにいる全員の視線がセラへと向けられた。鋭い視線がセラの全身に突き刺さっている。

 当の本人は注目を浴びたことが恥ずかしいらしく顔を赤らめている。レブルズでのセラのキャラが少しわかった気がした。


 「別に構わん。お主の本名も力のことも、助けてくれた恩人のことを根掘り葉掘り聞くつもりもないわい」


 レジン爺さんはいかにも好々爺と言う雰囲気で答えた。俺はそこに、ダラさんの面影を感じた。


「というかあんたら、その調子じゃ身元も割れてるだろ。どこか行く当てはあるのか?もしあるなら俺が送ってやるんだが……」


 「隣町にもレブルズの支部がある。とりあえずはそこに行こうと、みんなで話しておった。支部がどこにあるかは支部長しか知らないから、多分そこは無事じゃ」


 「隣町っていうとダリファか?そこへなら送っていけるぞ。ただ……」


 「……?どうした?」


 「1つお願いがあるんだ。助けられた礼だと思って頼まれちゃくれないか?」


 「できる範囲でならなんでもしよう。なんじゃ?」


 「一つ、俺もレブルズに加えちゃくれないか?一人でやっていて手に入れられる情報には限りがあるんだ。レブルズの情報網を借りたい」


 「別に構わん。ここにいるやつで反対なんてするやつはおらんよ。むしろワシ達としても君のような戦力になる人が入ってきてくれて大歓迎だ」


 「ありがとう。力になれるように頑張るよ」


 うん。こうして俺はあっさりとレブルズへの入団が決まったわけだが、それにおいては俺の力と顔、本名を隠すことにした。

 セラにはもう伝えてしまったが、目の前で裏切りによって騎士たちに連行されるのを見たからにはそのようなリスクを考えざる負えないからだ____実はさっき天啓____いや、俺なら地啓ちけいとでもいうべきかもしれない____その地啓の実行は俺が国家転覆者として指名手配されていたら成り立たないものなのだ。


 「そういえばみんな、家族はどうなんだ?」


 見渡す限りは老若男女が揃っている。まさかこの集まっている19人すべてに家族がいないってことはないだろう。家族が亡くなったことによってレブルズに拾われたものも多数いるだろうというのも承知の上だ。


 「ここにいるものは貴族や国に家族を殺されたやつらが大半じゃ。でももちろん家族がいるものもいるぞ。ワシもその一人じゃ、娘と孫がおる」


 「そいつらはどうするんだ?というか自分がこんな活動をしているってちゃんと伝えているのか?」


 「伝えておらんよ?まあ残されたものは死ぬじゃろうな。家族に国家転覆者が出たんじゃからまず間違いなく死罪じゃ。一族皆殺しじゃよ」












 



 は?


 俺の脳がその言葉とそれに含まれた感情の処理を拒絶していた。


 レジン爺さんはさも当然かのように言葉を発した____その言葉は悲しみの感情をまったく含んでおらず道端の石ころを見てただ石ころと受け止めるだけようで、ただの日常の一幕を切り取ったような声だった。


 「……なんだ……?家族が死ぬんだぞ……?悲しく……悲しくないのか?」


 「別に?この国を変えるのだからしょうがないじゃろ。最初からこんなことも視野に入れておる」


 こんな……こと?家族が死ぬのがこんなこと?


 「むしろこれでやっとみんなと揃ったってことじゃな!」


 そういうとレジン爺さんは大声で高らかに笑いだした。つられて少人数が同じように笑う。

 分からない。分からない。


 

 



 

 

 


 

 

 

 


 



 


 

 

 

  

 

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