貴族殺し

 ______


 「なんなんですか……何者なんですか……」


 (聞いてない!聞いてない!そんなの聞いてない。貴族を監視してたらなんであんなのが急に出てくるんだ!)


 茶色のロングヘアーに黒の装飾が散りばめられた赤色のローブを着ている少女は、薄暗い部屋に置かれている長方形の長机____一つにつき6席分の椅子があるその1席にて、両手で髪をクシャクシャにしてうずくまりながら恐怖で肩を震わせていた。


 (大丈夫。ただのハッタリ……あいつは来ない……)


 「泥……?」


 薄暗い部屋の片隅____そこに小さな泥があった。その泥はだんだん薄く広がり、やがて人ひとり分が通れるほどの泥だまり____沼へと変化する。


 「これは……あの男の!」


 少女は今いる薄暗い部屋____地下室の扉に向かって駆け出した。


 (逆探知なんて限られた魔導士にしかできないはずなのに!…………あいつは人にその行為がばれることを酷く嫌っていた……外にさえ出れば手出しはしてこないはず……)


 「がっ……!」


 しかしその少女は扉のノブへ手がかかる一歩手前にして頭から転んでしまった。いや____転ばされてしまった。少女はうまく手をついたようでケガを回避した。


 「初めましてだ。惜しかったな」


 「クソッ……」


 少女の左足首は、沼に沈んで固定されていた。


 ______


 実際、俺は逆探知に成功し、そこまで魔術で飛んできたわけだが……


 「待ってください……話をしましょう……」


 俺の目の前にいたのは年端も行かない少女だった。

 

 「俺もその気だ。とりあえず拘束は解いてやる。座らせてもらうぞ」


 俺はその少女の拘束を解き、部屋にあった長机、その6台の中の中心の1台そしてその真ん中の椅子に座った。その少女も逃げ出す気はないらしく俺の席の向かい側に座った。

 

 いやしかし、年端も行かないと判断したのは明らかな低身長……150cmもあるかないような身長だったことが要因の一つだが顔立ちは少々大人びている____見れば見るほど年齢が分からなくなってきた。年下にも年上にも同い年にも見える。というか可愛い。美少女だ。


 「まあとりあえずこの袋を見てほしい」


 俺は手に持っていた袋を指示した。


 「なんです?それ」

 「お前がほかに監視していた貴族の首だ。逆探知しているときに見つけたんで殺してきた。胴体はあそこの洞窟に飛ばしている。いずれモンスターに食われるだろうな。」


 思わぬ収穫__それはそうとて生首が入った袋をずっと持っておくというのも嫌なので体のところへ魔術で戻してやった。


 「お互い腹を割って話そうじゃないか。俺はシャナバ・ララガード。お前は?」

 「……セラ・メロマティック」


 さっきから薄々気づいてはいたが、このセラという少女……俺と全く目を合わさない。多分俺のことを警戒してだと思うのだが____しかたがないか、俺の第一、第二印象に至るまで最悪だ。誰だって警戒するな。


 「セラ、勘違いしないでほしいんだが君を殺す気はない。それは約束しよう」


 「いきなりセラなんて呼び捨てにしないでください。気持ち悪いです」


 流石にいきなり気持ち悪いなんて言われたら傷ついてしまう。これは警戒されているだけなのか?それとも既に嫌われているのか?


 いや、そうか……人殺しを拒絶するのは当たり前か。そうだよな……俺、人殺したんだよな。


 「あなた……何者ですか?あの魔術……絶対に普通の人じゃないですよね」


 俺がしばらく黙りこくっていると、今度は逆にセラの方から話しかけてきた。何者か……腹を割って話そうとは言ったものの、それを話すのは実際全ての根幹にかかわることであり、相手が何者かもわかってない状態では話したくない____が


 「分かった、その前に一つ。君もバーン、国、貴族のどれかに対して何か恨みを持っているな?」


 貴族に無礼を働く、危害を加えるということはよくて国外追放、悪くて一発死罪である。それほどまでにこの国では貴族はたっとぶ存在とされており、冒険者なんてやってるバーンは貴族の中でも異質な存在だ。そんなリスクを背負ってまで魔術による監視をするなんて余程の理由がないとしないはずだ。


 「だったらなんですか……」


 だがここまでは誰でも分かる。そんなこと俺がわざわざ言葉にしたのは互いの共通点を明確にして協力関係を築くためだ。セラの力を利用できるのなら、俺の国家転覆国取り計画実現に向け大きな一歩となる!それに俺がバーンを殺したことを言いふらされてしまうとかなりまずいことになる____それを防ぐのも大事だ。


 「つまり俺たちの行動原理は一緒ってことだよ。もうわかっていると思うが俺も国と貴族に恨みを持って行動している。俺たちは協力できると思わないか?」


 「それは……まあ……」


 「まあ急にこんなこと言われても信用できないだろう。全部話そうじゃないか」


 まずは俺から情報を公開し、セラに俺を信頼してもらう。俺はなぜ貴族と国に恨みを持ったか、この力は何なのか、なぜバーンを殺したのか全てを話した。


 「そんな……ことが……」

 

 どうやらセラは共感性がかなり高いらしく、俺の話を聞いて悲しみ控えめ怒り大きめの涙を流していた。


 「それじゃあ次はセ……君の番だ。話してくれ」


 「セラでいいです。あんな態度を取ってすいませんでした」


 どうやらかなり信用してもらえて心を開いてくれたらしい。呼び捨てを許可された。


 「私は王都の西外れの貧民街の生まれです。父は失踪し、母は男たちに体を売り、私は物乞いをしながら暮らしていました。私が住んでいた貧民街は王都を西口から出入りする時には必ず通る道にあります。そんな場所にある日、国王に謁見しに来た貴族が自分の領地からはるばる王都までやってきていました」


 貧民街……この町にも貧民街とも言える一角は存在していたが、信じられない劣悪な環境だった____国から見放された存在。貧民街の住民はそう呼ばれていた。それだけでも十分国や貴族に恨みを持つ理由としては筋の通ったものだったが、話を聞く限り、セラが国や貴族を恨む理由はもっと深いものらしかった。

 

 

 

 



 

 


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