縫い屋ちゃんは、エセサイコパス

あまくに みか

第1話 縫い屋へようこそ

//SE 扉のベルがなる音(カランカラン)


「縫い屋へようこそ、お兄さん」

「ここは壊れたものを縫い直すお店」

「今日はどういうご用件?」


//SE 足音(スニーカーで店内を歩く)

//SE 布を机に落とす音(バサっ)


(少しからかうように)

「ずいぶんと派手に破れちゃったね、このTシャツ」

「破れたというよりは――」

「切り刻まれちゃった?」


「これを縫い直して欲しいって?」

「大事なの? このヨレヨレが?」

 

(不機嫌に)

「ふーん。そうなんだ。恋人にもらったTシャツ……ねえ」


(やさしく)

「いいよ、縫ってあげる」

 

(恍惚な声色で)

「だってあたし」

「壊れてるものは、だーいすきなの」



//SE 糸を通す音(シャッ)

//SE 糸を引く音(スーッ)



(指示するように)

「でも、条件があるよ」

「ここに座って。あたしの目の前に」



//SE 椅子を引く音(あなたが椅子に座る)



「そう。じっとしていて」

 

(ささやき声)

「君のこと、観察させてよ」

 

「どうしてって?」

「気になるからに決まってるじゃん。君のこと」

 

(かわいらしく)

「ん? 勘違いしちゃった?」

「かわいいおばかさんだね、君って」

 

(恍惚な声色で)

「このTシャツよりもさ」

「君の方が壊れているから、気になっちゃって」


「縫ってあげようか」

「君の」


(ささやき声)

「こ・こ・ろ」



//SE 立ち上がる音(ぬいやちゃんが勢いよく立ち上がる)

//SE 指先が左胸に触れる音(トンッ)



(じっとりとささやく)

「こうやって」

「針で」

「ぬいぬい、ぬいって」

 

「鼓動がはやくなってるね。どうしたの?」

「あはは! 君のその困った顔、さいっこうにいいね」



//SE 椅子に戻る音(ぬいやちゃんが軽やかに着席)



「こうやってね、壊れたものを直す仕事してるでしょ」

「だからあたし、わかっちゃうんだよね」

「本当に壊れているものが、なにか」


(幼い子に言う感じで)

「んー? どうしてそんな驚いた顔するの?」

「当ててあげようか?」


(真面目に)

「このTシャツを破ったのは、君の恋人」

「ううん。もっと正確に言ってあげようか」


(ささやき声)

「ついさっきまで、恋人だった人」

 

(おどけた声)

「フラれたばかりの君の心は〜」

「ズタズタのボロボロ〜」

 

(真面目に)

「あたしなら直せるよ、君の心」

「このTシャツより、完璧に直してあげる」


「ね、だからまた明日おいでよ」

「ついでにTシャツも仕上げておいてあげるからさ」

「じゃ、またね」



//SE 扉のベルが鳴る音(カランカラン)

//SE 扉が閉まる音(退店)


 

(ここからは地声:ピュアな少女)

「あばばばばー!!」


(早口で)

「どっ、どうしよう! 彼、別れたって」

「ずっと前から気になってたお客さんだったから、どきどきしちゃった」

「てゆーか、落ちこんだ彼、めちゃくちゃかわいかったんですけど!」


(ため息)

「はあ……」


(静かな声)

「どうしてTシャツをこんなにする子と付き合ってたんだろ」

「あたしならこんなこと、絶対にしないし」

「あんな悲しそうな顔、させないのにな……」

「別れて正解だよ……」


(ハッとして、再び早口)

「というか、人の不幸を喜ぶなんて」

「わたしったらダメッ!」

「メメメメッ!」

「お、おおおお落ち着いてわたし! これはある意味チャンス」

 

(トーンダウン)

「……だったのに……」

 

「どうしてサイコパスキャラを選んじゃったわけ?」

「あたしのバカバカバカ」

「包容力のあるお姉さんキャラで、お話するはずだったのに……」


(絶望的な声)

「キャラ作りミスったぁぁぁ」

「ああー……もうおわりだよぉぉぉ」

 

「なにが」

 

(サイコパスキャラの声)

「壊れているものがだーいすき」

「ね、だからまた明日おいでよ」

 

(地声に戻る)

「だよー!! バカバカバカ!!」

「もう……明日どんな顔して彼に会えばいいの?」

「サイコキャラじゃ、縮まらないよ。彼との距離……」

 

(半べそ)

「うぅ……とりあえず、Tシャツ直そう」

「元カノからもらったTシャツなんて、捨てちゃえばいいのに」


「でも、直してあげるんだ」

「だって、彼のこと」

「すき……だから」

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