第3話 レジに潜む悪魔
ショーケースには乱雑に商品が置かれていて、
お菓子コーナーに至っては封が開けられた商品が当たり前のように陳列されていた。
「俺の心の中みたいだな…」
俺はボソッと呟くと
それを片付けるわけでもなく、
そのままレジに立つ。
先程の高梨君の影響かレジカウンターは綺麗に磨かれており光沢を放っていた。
レジカウンターは醜く肥えた小汚い俺の姿を映し出す。
皮肉なことに綺麗に磨かれた影響で俺の醜い姿が嫌味のように俺の目に入ってくる。
「普通に生きてるだけなのに…」
俺は一人呟く。
少しずつ溢れ出ていたモヤモヤとしたバケモノが
俺の耳元で囁く。
【お前が努力してないのが悪いのにまた人のせいにしてるやん。
お前が運動せずに暴飲暴食したのが悪いのにな。
服装だってシワクチャでシミのついた短パンにヨレヨレの上着。
ヨレヨレの上着からはみ出てる脇毛もいつになったら切るねんな。
一丁前に周りと比べてるけどお前はまだその土俵にすら立ててへんやんか】
バケモノは先程のことを根に持っているのか、今までより口調が激しめだった。
「お前は何も知らないくせに…」
俺は一人俯きながら震える拳を押さえつける。
【何も知らないのはお前の方やけどな。】
バケモノは嫌味のように呟く。
テレレレーン テレレレーン
入店音が狭い店内に響き渡る。
黒のスーツで身を囲む細身で華奢とした女性が入店した。
カッカッカ
ハイヒールの音を奏でながら惣菜コーナーに向かう。
黒のグラサンをかけており、宝石のように輝いた瞳がグラサン越しに漏れ出ていた。
俺はあまりの美しさに目が釘付けになる。
【自分今めちゃくちゃ興奮してるやろ。
お前好みの顔してるもんな。】
バケモノがニヤケながら語りかける。
「お前には関係ないだろ。」
俺はすぐに否定し、バケモノを無理やり閉じ込める。
閉じ込められたバケモノはガス漏れのようにじわじわと
溢れ出ている、
彼女は鼻歌を歌いながら乱雑に置かれた商品を
陳列し直していた。
俺は自然と笑みを溢す。
「俺と違ってあの人は根っこから優しいんだな…」
彼女は少量のサラダと僕には美味しそうに見えないサラダチキンを抱えながらレジにやってくる。
今にも折れそうな細い腕が少し心配になってくる。
「そこまでして痩せて彼女は本当に幸せなのだろうか…」
俺は俯きながら呟く。
【努力したことないお前にはわからんよな。】
バケモノの声はいつもより落ち着いていて、少し寂しそうだった。
「なら教えてくれよ。」
【…………………………】
バケモノと僕の間に沈黙が生まれる。
「もしかしてお前もわからないのか?
声の調子がいつもより悪そうみたいやけどさ。」
バケモノに対して強い口調で責めようと思ったが僕の口から出た声は優しくて透き通っていた。
「お前と俺って何も変わらないんだな…
お前の気持ち痛いほどわかるよ…」
俺は小さく呟く…
いつもなら誰にも聞かれず消えていく声だが今回は
聞いてくれる友達がいたみたいだ。
【なぁ、ワイってなんのために存在してるんや?】
バケモノが寂しそうに呟く。
「それは俺のセリフだよ…
なんのために生まれたのかなんて俺もわからない…
ただ生まれたから存在してる それだけだよ…」
「あの〜
早く会計してくれませんか?」
レジ前に立っている先程の彼女が少し申し訳なさそうに言った。
「あ、はい。
すみません今すぐやりますので。」
俺は酷く慌てた様子で急いで商品をスキャンしようとする。
その時だった。
ドタンッ
サラダの入ったプラスチックの容器が床に落ちる。
容器からは色とりどりのサラダが溢れ出ていた。
「す、すみません。」
俺は急いで謝り拾い上げようとする。
その時不意に彼女の顔がグラサンの隙間から見える。
なんとその瞳は日本人では珍しい青色に輝いていた。
ガタッ
突然俺の体が動かなくなる。
身体中が黒色に染まり、禍々しいオーラを放ち始める。
俺の左手がゆっくりとじわじわと彼女に近づいていく。
「や、やめ」
俺の左手が彼女の胸を掴む。
キャー
彼女の悲鳴が狭いコンビニに響き渡る。
【ごめん…
ワイにはもう我慢できへんかったみたいやわ。】
バケモノが酷く震えた声で呟く。
「お前…彼女のこと知ってるんだろ。
何故お前は彼女の瞳が見えた瞬間暴れたんだ!」
俺は彼女の悲鳴を掻き消すほどの声で叫ぶ。
コンビニにいた客の目線が一気に集まる。
【………………】
バケモノは無言で何も言わない。
俺は浸食された体を必死に抑えながら一目散に店を出る。
身体中に汗を染み込ませながらズキズキと痛む心臓抑えながらなんとか足を動かす。
俺は足を引きずりながら赤信号の交差点に向かう。
俺は泣きそうな顔を抑えながら地面を這いつくばる。
ズキッ
頭の中に痛みが走る。
バケモノの浸食が脳にまで到達していたのだ。
その時、頭の中にある記憶が流れてくる。
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